『アナタさ、』


噂で、聞いたことがある。

お母さんは日本人で、シングルマザーだった。
誰との子かもわからない蓮見くんを産んで、そして、蓮見くんが高校生になる前に死んだんだとか。

「……綺麗だよ」

「…え…?」

ひどく、怯えた顔で彼は私を見た。
頭を両手で覆って。

長い前髪は、隠すためだったんだね。

「何で隠すの?
もったいないよ、こんなに綺麗なのに」

「………」

「目の中に、空があるみたい」

私は微笑んだ。
彼は驚いてるように見えた。
相変わらず無表情だけど。

「辛かったの?今まで」

彼の手をとった。
冷たくて、でも力強かった。

「大丈夫、あなたは一人じゃないはずよ」

少なくとも、私はあなたの味方だから、と付け加えた。
すると、彼の瞳が揺れた。


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