『アナタさ、』


「失礼、します」

私が下を向いてそう言うと、先生は何も言わなかった。

特に用はなかったらしい。

…いや、蓮見くんのことで何か言いたかったのかな。

嫌だ。
あの人は本当に嫌だ。

今までは“苦手”だったけど、今はもう“嫌い”だ。

自分の弟…たとえ半分しか血がつながっていないとしても…そんな弟をあんな風に貶すなんて…

教師のすることじゃない。

それに、それに…悔しいんだ。
蓮見くんはそんな人じゃない、素敵な人だって、ちゃんと言えなかった。
言い返せなかった。

悔しい。
悔しい。

職員室のドアの前。
私は両拳を握りしめて、今にも溢れそうな涙を堪えていた。

──それを、誰かに見られてるなんて思わなかった。


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