『アナタさ、』



──手を、握っていた。
懐かしい感触だった。

─こはる、こはる…

私を呼ぶ声。
懐かしい声だった。

あぁ、心地いいなぁ。
ずっと眠っていたい。
起きたくない。

だって、現実は怖いんだ。
人って、すごく怖いんだ。

嫌だよ。
嫌だ嫌だ嫌だ。

…でも、そんなこといってられない。
悲しんでくれる人がいるんだ。

蓮やこのみちゃん。
それに…

蓮見くんは、もしかして一緒に悲しんでくれたりするかなぁ…

「葉月!」

「…っ!?」

聞いたことのない大きな声に目を覚ますと、目の前には見たことのない表情をした蓮見くんがいた。

手を、握られていた。

「蓮見、くん…」

「階段から、落ちたんだ…
誰かに落とされた…?」

…あぁ、そっか。
階段の踊り場だったもんね、あそこ。

殴られて、そのまま後ろに落ちていったんだ。
体のあちこちも痛いし…

「大丈夫、か?」

すごく、心配そうに顔を歪めていた。
不謹慎かもしれないけど、ちょっと、いやかなり嬉しかった。

「何で笑ってんの」

その顔は無表情に戻った。


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