『アナタさ、』



「ううん、大丈夫。ありがとう」

私がいつもみたいに笑って見せると、安心したように彼はため息をついた。

「僕、聞いてたんだ。職員室で…」

え?
今、なんて…

「現代文の課題を提出しに行こうとして、職員室に入ろうとしたら…
あに…木戸先生と葉月が言い合ってて。
びっくりした。全部聞こえてたんだけど」

「ぜ、んぶ…」

「うん、全部」

彼は、嫌な表情なんかしてなかった。
木戸先生は彼のことをすごく悪く言ってたのに。

「嬉しかった。ありがとう」

そんなことを言ってまた、彼は微笑んでいた。
とても自然で、満たされたような笑顔だった。

──ねぇ、自惚れてもいいかな。
彼は、私に心を開いてくれてるんだ、って。

「…でも」

「?」

「ちゃんと、言い返せなかった…」

私は俯いて、ベッドのシーツを握りしめた。
すると彼は、私の頭に触れた。

「いいんだ。全部本当のことだし。
それに、1人でも僕のことをよく思ってくれている人がいれば…
それだけで十分だ」

…泣きそうになった。
どうして彼はこんなにも無欲で、純粋なんだろう…
どうしてこんな彼が、傷つけられなきゃいけないんだろう…






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