発展途上の王国
貧乏学生である<キョーノスケ>は扇風機を四苦八苦して直し、稼動させていた。
ぶーんぶーんと蜂の羽音のような音を立てながら、右へ左へと扇風機は顔を動かす。
去年辛酸を舐めた<キョーノスケ>は<ユリン>に扇風機の特等席を譲っていた。
そして畳の上でだらしなく、「あちーあちー」と週刊漫画誌を顔に乗せて念仏のように唱えている。
<ユリン>は今年もまた「ワレワレハ、ウチュウジンダ」とくるくる回る羽に向って、変容した声を楽しんでいた。
「キョーちゃん、扇風機に指を突っ込むとどうなるの?」
振り返った<ユリン>は<キョーノスケ>に視線を移した。
だが<キョーノスケ>はなかなか起きようとはしない。
「どうなるもなにも、高速で回る羽に突っ込んだら、にんじんだって切れちまうくらいの凶器になるんだよ」
「ニンジンさん切れる? じゃあ、タマネギさんも切れる? お肉さんも切れる? ジャガイモさんも切れる?」
「切れるよ、切れる。その前に自分の指が切れる」