発展途上の王国
「おまッ、なにやってんだよオイ! いいからそれを抜け、今すぐにんじんを抜け!」
「わかった」
<ユリン>は抜いてみたが、扇風機はぴくりとも動かない。
「だってキョーちゃん、言ったよ? ニンジンさんも切れる、タマネギさんも切れる、お肉さんも切れる、ジャガイモさんも切れるって」
「なんだよそれ、お前カレーでも作るつもりだったんですかー、ええええ!! 材料は包丁で切るもんだろうが!! カレーは包丁で切ってこそ旨いんだ!」
「けどキョーちゃん言ったよ、ニンジンさん切れる、タマネギさんも切れる―――」
「もういいよ、そのくだりはもういいよ! どんだけお前カレー作りたかったんだよ!」
<キョーノスケ>は<ユリン>の隣に座って扇風機を叩いてみる、振ってみる。
電化製品は叩けば直るという風習に倣ったものだ。
けれど扇風機はうんともすんとも言わない。
<キョーノスケ>は顔面蒼白となり、<ユリン>は背中に不穏などす黒い空気を背負ってその場に座りこんでしまった。