発展途上の王国



「昔からカレー嫌いな人はいないと言うよ。だからきっとキョーちゃんも好きだと思ったの。だから私作ろうとしたんだよ! キョーちゃんが“おいしい”って言ってるところを想像して作ろうとしたの―――だけど失敗しちゃった。キョーちゃんのために作ろうと思ったけど失敗ちゃった」

「なにそれ、姉ちゃん。まるで俺がわるいみたいな言い方しちゃって。そもそもアレだよ、にんじんも切れるって、それくらいの凶器になるから絶対に指を突っ込んじゃダメ的な教訓の話じゃん。なに誤解してんの、なにさりげなく俺のせいにしちゃってんの! 明らかに今壊したの姉ちゃんだからね、責任取るのも姉ちゃんだからね!」

「幽霊の私に外へ出ろと言うの? 幽霊は涼しい夜に出るものだよ! 今日の暑さじゃ私、アイスのようにとけてなくなっちゃう――――キョーちゃん、なんて酷い大人になっちゃったの? 私よりそんなに扇風機が大切なの? キョーちゃんは私なんかより扇風機が大好きなんだ……」



瞳に涙を溜めた<ユリン>が<キョーノスケ>を見上げた。



「ったく、しょうがねー姉ちゃんだな」



たとえ子供だとしても女の涙に弱い<キョーノスケ>は重い腰を上げた。

頭を数回ぼりぼりと掻き、玄関へ向かう。

けれど<キョーノスケ>は<ユリン>の右手に古典的な目薬が握られていたことを知らない。



「ったく、大人はちょろいな」



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