発展途上の王国
“ハルヨシ先生”の自宅はわたしのアパートからだと五駅分くらいの距離で、
彼が懇意にしている出版社から遠くない場所にあるマンションの一室だ。
両隣には「漫画家である」とは告げていて、
朝昼夜関係なく家で仕事をしていることを理解してもらっている。
けれど商業誌用の“ハルヨシ”という名前は教えていないようだった。
「夏代くん、入るよ?」
チャイムを鳴らしても出てこなかったので、
声をかけてみる。
応対がなさそうだったので、
合鍵で部屋に入ることにした。