発展途上の王国
「そういう意味だったら、わたしも見ていたと思うよ」
「うっそだー! サナって俺からの視線、完璧に流してたでしょ。だから俺はいつも“振り向け、振り向け”って、“俺を見て”ってサナの背中を見ながら心の中で唱えてたんだ」
「この背中だよこの背中」と、
夏代くんは再びわたしを背中から抱きしめて、
肩に顎を乗せた。
「なのにさらりと<大丈夫>って心配するんだよ。そういうとこずるいんだよな、サナは。雨の音と外野の声が雑じって吐きそうになっていた俺を、<大丈夫?>の一言で救ってくれたんだ。そのとき<ツンデレも大概にしろ>って思ったね。惚れるだろって! だからもうそのときから、俺はサナにめろめろなの」
「めろめろって」
「表現が古い? でも俺にはその言葉がぴったりなんだよ。今じゃ胃袋まで掴まれちゃって、もうサナなしじゃ生きていけないっつの。ホント、俺の恋が成就してよかった」
背中にぴったり夏代くんの体温がくっついている。