発展途上の王国
「リクエストどおりの、身体に優しいカレーにしてみました」
リズムを刻んでいたわたしの手を取って、
夏代くんはそのてのひらにキスをする。
「サナには嘘がつけないな」
「だから言ったでしょ。わたしの背中はいつも振り向いてるって」
「じゃあ、ちゃんと俺を見てて? 俺は俺だよって、言って」
夏代くんの唇が近づいて、
わたしの唇にそっと重なった。
「夏代くんは夏代くんだよ。ほかに代わりのない夏代くんだよ? わたしは夏代くんを見てる」
夏代くん自身を見ている。
彼の作品でもなく、
名声でもなく、
そのままの夏代くんを見ている。