発展途上の王国
「食べられる?」
「食べたいから、起こして」
わたしは夏代くんの角ばった手首を掴んで上体を起こし、
座らせた。
キッチンからアイスと冷えピタと、
タオルを持って夏代くんのもとに急いだ。
「アイス、少し溶けちゃったかもしれない。今日って東京も三十五度を超える猛暑日なんだって」
彼は興味なさそうな返事をして、
手渡したアイスを食べ始めている。
わたしは彼の前髪を上げ、
額の汗を拭いていく。
夏代くんの髪は汗で濡れ、
漆黒に輝いていてうつくしい。
妙な嫉妬心が生まれて、
予定を変更しタオルで髪を乾かすことにした。
「サナ、いたいいたい。乱暴反対」
「無駄に色っぽい夏代くんがわるい」
「それって俺のせいなの? って!」