6 on 1 lovers -来たれ生徒会-
先を歩いて行ったハヤテくんが遠くから高萩くんを呼ぶ。その声に「今行く!」と返事をすると、彼はハヤテくんがいる場所へ駆けていった。
「彼も生徒会役員、か」
「ね?そんなに悪い人たちばかりじゃないでしょ?」
「…どうだか」
七海はその言葉と共に溜息をつくと教室へ入り、授業の準備を始めた。
* * *
睡魔が襲う午後の授業も何とか耐え抜き、時は既に放課後。今朝副会長の近藤さんから受け取った、来月の予算案が記入されたノートと書類を鞄の中に入れたことを確認して、私は生徒会室へ向かった。
「…こんにちはー」
生徒会室の扉を慣れない手つきで開く。中には、一年生で会計の三剣ハルがいた。一番会長席に近い自席で、ケータイゲーム機に集中している。机上にはチョコレート菓子が置いてあり、時々無意識に右手を伸ばしては口に運んでいた。私が来たことに気付いているのか、いないのか、彼は視線をちらりともこちらに向けない。
「あの、三剣くん」
「………………」
「……あの、」
「………………」
「…ら、来月の予算案のことなんだけど」
「…何」
「えっと、ちょっと計算が合わない箇所があったから、確認してくれる?」
「……………貸して。」
ゲーム機を置き、その手を私に向かって差し出す。男の子とは思えない綺麗な指先をしている。そっと出したノートをひったくると、彼は退屈そうにページをめくった。
「合ってるよ。その予算には余りが出る」
「え、でも、余りは……」
「お菓子代」
「え」
彼は机上のチョコレート菓子を右手で摘まむと、それを私に見せ付けるかのように口に入れる。まるで、これがその答えだと言うように。いや、まるで、ではなく正にその答えなのだ。
「活動費はどうしたって詳細を記さないといけないでしょ。例えば軽音楽部なら、楽譜代とかメンテナンス代とか。さすがに書類上に《お菓子代》なんて書けないし、教師もこの予算の余りが生徒会の活動費として使われているのも知っている。」
彼はまた一つ、チョコレート菓子を口に運んで咀嚼をすると、子猫のような舌で上唇をぺろりと舐めた。幼い顔付きをしているのにも関わらず、その仕草は何とも艶っぽい。
「で、でも…っ」
「うるさいな。新入りがとやかく口出ししないでくれる?会計は僕で、最終的に決断を下すのは会長であるタクトなんだよ。僕への用事はそれだけ?だったらもう黙っててくれないかな」