6 on 1 lovers -来たれ生徒会-
→ 浅倉タクトの場合 1

ドSヒーロー登場


「何してるの?」

階段の上から発せられたその凛とした声に、私の髪の毛を掴んでいた彼女の力が弱まる。そして後方の彼女たちと同様、声の方向へ勢いよく振り返った。

「…浅倉、会長っ」

私は思わず彼の名を呼んだ。彼は、私のことを追い込んでいる彼女たちを笑顔で見つめている。無論、その笑顔の中に『笑み』は無い。私がいつも彼に向けられている笑顔とも異なる、何とも不気味で、恐ろしいものだ。突然の浅倉会長の登場で怯んだのが、彼女たちは身体をくねらせ、急いで笑顔を取り繕う。彼の片眉がその瞬間ピクリと動いたのが分かった。

「えっと…浅倉会長、これは…」
「さ、櫻木さんとちょっとふざけていただけなんです…!」
「そ、そうそう!そうなんです!私たちも、新しく生徒会に入った櫻木さんてどんな子なのかなーって気になってて、たまたま櫻木さんが通りかかったから少しだけ付き合って貰ったんですっ」

必死に弁解する彼女たちの頬に、冷や汗が流れた。自分たちが追っかけていた生徒会のリーダーに嫌われるのが恐いのか、それとも学校全体の実権を握っている生徒会のリーダーに反するのが恐いのか。私には分からない。私を追い詰めていた時の勢いとは打って変わり、へこへこと腰を低くしている彼女たちを彼は笑顔で見つめながら、まるでわざと焦らしているかのように一段一段階段を下りてくる。そして彼女たちの前に下り立った彼は、先程の笑みを少しも壊すことなくこう言った。

「お前らになんて聞いていない」

彼女たちの笑顔が凍り付くのが分かった。『初めから私たちの声など聞いていなかったということ?』と、心の中で言っているようにも見える。私も驚いて、「え、」と素っ頓狂な声を出してしまった。彼は固まる彼女たちから顔を逸らし、貼り付けの笑顔のまま私に向き直った。

「急いで行ってくるって、言ったよね?こんなところで油売ってる場合?」

< 19 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop