6 on 1 lovers -来たれ生徒会-
→ 三剣ハルの場合 1

ちびっ子ヒーロー登場


「アンタはまともにお使いも出来ないわけ?」

丸い大きな右目で私を捉え、呆れたように眉毛を下げる。その表情と容姿は幼さを残し、けれどもしっかりと男性の色気をも持っている。階段の手すりに片肘を置き、退屈そうにこちらを傍観している様はまるで、しつこくちょっかいを出す飼い主を馬鹿にする猫だ。

「…三剣くんっ!」

名を呼ぶ私の声に対し、彼は特に表情を変えることは無かったが、私を捉えていた視線だけがちらりと私の左肩に移動した。その左肩は、力こそ弱まったが未だ彼女に掴まれたままだ。彼女たちは彼を見上げ、怯むように下唇を噛んでいる。

「悪いけどさ、そいつまだお使いの途中なんだよね。つるんで虐めるのも程々にしてやってくれない?」

気怠そうに溜息をついた彼は、右手で後頭部を掻きながらステップを踏むような軽やかな足どりで階段を下る。近付いてくる彼に更に怯んだ彼女は、慌てて私の左肩から手を離した。そんな彼女たちの前に下り立った彼は、先程とは打って変わり、餌をねだる子猫のような表情を顔面に貼り付け、可愛らしく首を傾げてみせた。

「ね、ダメかな?先輩」
「………っ!!!」

眼前の彼女たちの心が射抜かれて、息を飲んだのが分かった。直接向けられている訳でもない私でさえ、目眩を起こしてしまいそうなくらいの威力である。

「わ、私たちは別に…この子を虐めてなんて…」
「そうなの?でもほら、櫻木先輩恐がってるよ?さっきも掴まれた肩が痛そうだったし…」
「………っ」
「先輩はさ、人の傷みを考えたことってある?」

そう言った彼の表情が、一瞬曇ったように感じた。しかしそう思ったのも束の間、彼は先程に続き猫なで声で彼女たちに話掛ける。

「僕、先輩たちが本当はとても素敵な女の子だってこと知ってるよ。」
「………っ」
「今ここで見たことは、会長には黙っていてあげる。だから勘弁してもらえないかな?」

< 21 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop