線香花火
「君の父上が長州に資金援助をしているっていう証拠が出てきたんだよ」
「う、嘘…。嘘、だよね、そんなの」
「嘘じゃないんだけどね。ま、信じたい方を信じなよ」
今までにないほどに揺れる瞳に、この場には不釣り合いな花火が映りこんだ。
「……殺すの?父さんを」
暫くの静寂の後、ポツリと零された君の声は、あまりにも弱弱しくて、無意識に腕が君に伸びていた。
それに気づいて、その手を無理やり刀に添える。
カシンと、ぶつかる大小の刀が、今日はやけに重たく感じた。
「新選組の邪魔になるものは誰だって斬るよ。…それが僕の仕事だからね」
そうだ、僕は選んだんだ。
多恵ちゃんではなく、新選組を、近藤さんを選んだ。
…でも
「……でも、君は斬れない」
「っ!?」
「君は、斬りたくないんだ」
だから僕の邪魔をしないで、早く逃げて。
呟くようにそう言えば、君は絶望を浮かべた顔で、崩れるようにその場に膝をついた。
その頬には幾筋もの涙の跡。
拭ってあげたいけど、僕にはそれは許されない。
無理やり視線を空に向ければ、いつのまにか始まっていた花火は、いつのまにか終わっていた。
まるで僕たちみたいだ。