線香花火








「……ん」

重たい瞼を持ち上げれば、薄暗い視界に広がるのは見慣れた天上。

「夢、か…」

随分と昔の夢を見たな。

ハッと自嘲的な笑みを零し、思うように動かなくなった体を無理やり横にした。

そうすれば家の誰かが開けていってくれたのか、開かれた障子戸から夏特有の生暖かい風が入り込んでくる。

その風を不快に思っていれば、ドォン、ドォンと、花火の上がる音だけが耳に届いた。

「ああ、そういえば今日は花火大会なんだっけ」

だからあの日の事を夢に見てしまったのだろうか…。

「……でも君との夢を見るのなら、もっと別のものが良かったな」

ゆっくりと目を閉じる。

そうすればすぐに君の笑顔が現れるんだ。

君が僕の中から消えてくれなくて。

思い出す君の笑顔が日毎に増していく。

「多恵ちゃん…」

君は今どこで何をしているのかな。

こんなこと僕が願うなんて、おこがましいのは分かってる。

でも願わずにはいられないんだ。



君がどうか今も笑ってくれていますように。



君の笑顔を奪ったのは他の誰でもない僕なのに、誰よりも君が笑ってくれていることを願ってるよ。

それから__



「…ごめんね、僕は今でも君を愛してる」




――総司くん。


瞼の裏で、君が笑ってくれたような気がした。







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