線香花火


ひょっこりと暖簾をくぐり、店の中を覗きこむ。

「あ、総司くん」

そうすれば君はすぐに気付いてくれて、僕に可愛らしい笑顔を向けてくれる。

それだけで、僕は馬鹿みたいに幸せを感じられるんだ。

「こんにちは、多恵ちゃん」

いつものように笑って挨拶をすれば、多恵ちゃんが首を傾げる。

どうしたんだろう?

「どうかした?」

そう尋ねれば、多恵ちゃんは僕の顔を覗きこんできた。

思いのほか近くなった距離に、柄にもなく胸が高鳴る。

だけど同時に苦しくて、切なくて…。

「それはこっちの台詞だよ。…何かあったの?総司くん」

「別に何も?」

「そう?なら良いんだけど…」

そう言って離れていく多恵ちゃんに、寂しさに似た何かを覚えて、動揺を悟られないように、「ああ、でも」と明るめの声を出した。

不思議そうに首を傾げる多恵ちゃんと目を合わせる。

「ちょっと緊張してるかな」

「緊張?」

「うん。あのね、」

そう言って僕は台の上に置かれていた多恵ちゃんの手に、そっと自分の手を重ねる。

咄嗟に引っこめようとした多恵ちゃんの手を逃がさないように、ギュッと優しく握った。



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