線香花火
「私、花火大会なんて久しぶりだよ」
水蓮があしらわれた浴衣に身を包んだ多恵ちゃんが、カランコロンと陽気な下駄の音を響かせながら、僕の隣で楽しそうに笑う。
いつもは隠れている項が、夕日に照られさて僕を妙に切ない気持ちにさせた。
「楽しみだね。何食べようか」なんて呑気に笑っている君は思いもしないんだろうな。
僕が今、「屋台は逃げないからゆっくり歩きなよ」なんて言いながら、頭の中では任務の段取りを考えているなんて。
ゆっくりと、多恵ちゃんの手と自分の手を重ねる。
「っ!!」
跳ね返されるかな、と思ったけど、多恵ちゃんは吃驚しただけで、緩く繋いでいた僕の手を優しく包み込んでくれた。
自然と寄せられた肩が、僕の腕に当たってくすぐったい気持ちになる。
このまま刻が止まればいいのに…。
「…ちょっと買いすぎじゃない?多恵ちゃん」
「だってお祭りなんて年に一度なんだよ?楽しまなくっちゃ!ほら、総司くんも」
「っ、はいはい」
口元に運ばれた葛餅に、少し躊躇しながら噛り付く。
少しぐらい恋仲らしいことしても良いよね。
今日が僕たちの最後なんだから。
もう、これで最後だから…。