線香花火


空が闇色に染まり始めたころ、僕は徐に立ち上がり、多恵ちゃんに手を差し出す。

「多恵ちゃん」

「なあに?」

何も言わなくても、当たり前のように繋がれる手に幸せを噛みしめながら、多恵ちゃんの手を引っ張り立ち上がらせる。

「花火がよく見える場所を知ってるんだ。そこに行こう」

「うん!」

多恵ちゃんと繋いでいないほうの手で、提灯を掲げてでこぼこの階段を一歩一歩登って行く。

「大丈夫?」

「平気だよ。総司くんが引っ張ってくれるから」

繋いでいる手に、ギュッと力が込められた。

「…もう少しだから頑張って」

「うん!」



時々、錯覚してしまいそうになる。

僕は君とずっと、こうしていられるんじゃないのかって。

普通の恋仲のようになれるんじゃないのかって。

…だけど、現実はそう甘くないんだ。



「や、やっと着いたあ!」

「うん。頑張ったね」

よしよしと頭を撫でてあげれば、多恵ちゃんは頬を膨らませる。

「もう、またそうやって子ども扱いするんだから!」

「だって僕より年下じゃない」

笑ってそう言えば、多恵ちゃんの頬がますます膨らんだ。

そんな表情まで愛しいと思う僕はもう相当重傷だと思う。


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