神様修行はじめます! 其の三
「全ての座り女は、この雛型より生まれたのでおじゃります。これの分身でおじゃりますな」


「しかしもう、必要なかろう? ・・・眠らせてやってはどうじゃ?」


絹糸が長いしっぽをユラリと動かした。


視線を逸らさぬその姿から漂う気配は、どこか物悲しい。


やっぱり絹糸、この雛型と自分を重ね合わせている。


絹糸が不死の体なのかどうか、あたしは知らない。


なんとなく聞く事ができなくて。


ただ、人間にとっての永遠といえるほどの長い刻を生きるのは、確かだ。


生きなければ・・・ならない。


役目を終えたなら、どうかもう静かに眠らせてやって欲しい。


それは絹糸の我が身を振り返った本音だろう。


あたしの胸が、チクリと痛んだ。


「いえいえ、まだ必要でおじゃりまする」


暗闇に浮かぶマロさんの顔がホホホと笑う。


「まだこの雛型には役目がおじゃりますので」


「役目? もうそれは無かろう?」


雛型から動かなかった絹糸の視線がマロさんに移った。


「それぞれの座り女が消耗して消える際は、自分で次の分身を生み出す。じゃからもう雛型の必要は無い」


「ホホホ、博識な絹糸殿も間違う事があるのでおじゃりますなあ」


白い扇が赤い口元を隠すようにユラユラ動く。


「分身に、自分の分身を作り出す事はできませぬ。あれ等はただ、生まれて消えるのみ」


「・・・どういう事じゃ?」


「複製に複製を重ねては、劣化の原因でおじゃります」


「・・・・・・」


「質を維持するためには、常に雛型が必要なのでおじゃります」


コピーしたものを元に、またコピーする。


そのコピー品を元にしてまたコピー。


繰り返していけば、どんどん劣化して出来上がりは粗悪品になる。


それを防ぐためには、常にオリジナルをコピーし続けるしかない。

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