神様修行はじめます！ 其の三

「お前は、現世でいえばまだ親に庇護されるべき未熟な存在じゃろう」


絹糸は冷静な声と態度で話し続ける。


「だがこちらの世界でそれは通用せぬ。親元に帰るたびに甘え心が抜けきれぬのであれば・・・」


金色の目が瞬きもせずに、きっぱり言い切った。


「帰ったまま、もう二度と戻ってくるでない」


ガンッと殴られたかのような衝撃が走った。


こんな絹糸は初めてだった。こんな、こんな・・・。


いつもの飄々とした明るい絹糸との落差に、あたしは怯んでしまう。


悲しさと、苦しさと寂しさと、突き放された心細さを感じて・・・


思い知った。

あたし、結局は甘えていただけだ。


爪の先が食い込むくらい、強く強く拳を握り締める


未熟だっただけだ。そして周囲の優しさに頼っていたんだ。


甘えも未熟も、彼を守る為には無用なものなのに。


あぁ、確かにあたしは役立たずだ。

でも絹糸、あたし・・・。


「もういい。天内君は戻ってきたんだ。それが彼女の答えだ」


門川君がもう一度ハンカチでグルリと口元を拭い、立ち上がった。


秀麗な顔の下半分、赤い血で汚れている。


「この程度の事で騒ぎ立てる必要は無い」


「血まみれのくせに何を言うか」


「わざわざ治癒の術を使うほどでもないからだよ。ただの出血だろう」


「鼻血をたらした門川当主など、前代未聞じゃわい」


「なら慣れてもらおう。これからはちょくちょく見る事になる」


血に染まった顔と体で、彼は事も無げに言った。


「自分の血の一滴も流さずに門川を変えられると信じるほど、僕は都合の良い性格ではない」


美しい切れ長の目が、あたしをしっかりと見据える。


「僕が信じるのは流した血の先にある・・・君たちや彼女と築く未来だ」


門川君・・・。


「覚悟をしたんだよ。僕は生涯、彼女を離さないと」