神様修行はじめます! 其の三
覚悟。


様々な形での痛みと苦しみを受け止める覚悟。


そして、彼が信じる未来。


そうだ。あたしも信じた。


茨の道の向こうの未来で、あたしの隣には門川君がいる事を。


ただ夢みて望むだけでは叶えられない未来。


進み歩き続ける足から血を流して実現する未来。


それをあたしは、歩き始めた途端に痛みに悲鳴を上げて放棄するところだった。


『彼のために』という美辞麗句を言い訳にして。


あたしは唇を強く噛み締める。


本当だ。確かに塔子さんや御簾向こうの女性の言う通りだ。


あたしは、都合の良い言い訳を隠れ蓑にした卑怯者だったんだ。


「ふん。口だけは達者になりおったのぉ」


「絹糸、僕は・・・」


「あぁ、よいわよいわ。口から血を垂らしながら熱弁されても不気味で仕方ないわい」


絹糸はシッポを揺らし、くるりと向き直る。


「それよりもこちらを片付るがよい」


そう言った絹糸の黄金の視線の先には・・・


壁一面に垂れ下がる御簾。


竹で編まれた、細かい目の隙間向こう。


よく見通せない視界の向こうで、みっつの影が門川君に向かって平伏していた。


門川君の視線も御簾の向こうに向けられる。


途端に彼の全身に纏う気配がキンと張り詰めた。


静かで落ち着いた、門川当主の声が影に向かって話しかけた。


「長老方よ」

「・・・はい。当主様」


軽い空咳と共に、真ん中の小柄な影がしゃがれた声を出す。


老齢の男性の声だ。間違いない。


「御出ましになられるとは、思いもよりませずにご無礼を致しました」


隣で平伏している、あたしと話していた女性の声も聞こえる。


「高座よりのご挨拶とご無礼、なにとぞご容赦下さいませ」


「それは別段、僕は気にしない。ただ、容赦というなら・・・」

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