神様修行はじめます! 其の三
訥々とした女の声が、次第に熱を帯びてくる。


「当主様は、犠牲など下々の者が払えば良い、とのお考えがございましょうか?」


「そんな事は一度も考えたことも無い」


「当主様は上に立つ者が身を切り、血の涙を流し、民を守らねばならぬ事を良くご存知でいらっしゃいます」


声に悲痛な響きが混じる。それでも女は懸命に話し続ける。


「座り女になど、誰が好んで成りましょうや。しかし誰も成らぬというのなら・・・」


「・・・・・」


「お身内から出すより他に、民を守るすべは無い」


鎮痛で物悲しい、でも強い意志を秘めた声。


「当主様ならば、民のため世界のためにきっとご理解下さると、わたくし共は心より信じております」


シンとした道場内に、女の涙交じりの声が響いた。


「当主様、さぞやお辛いことでございましょう。さぞやお悲しいことでございましょう」


震える声に満ちる大きな悲哀が、胸苦しく胸を打ち掻き乱す。


「その苦悩を歴代当主様方は、耐え続け、受け入れ続けて下さいました。我ら門川の民のために」


すすり泣く、声・・・。


涙を飲み込み、深い深い苦悩の声で・・・


「どうか・・・耐え難きを耐え、天内の娘を民に差し出して下さいませ・・・」


道場内に悲しい泣き声が満ちた。


いつの間にか意識が戻ったらしい侍女達が、袖口を目にあてすすり泣いている。


皆、肩を震わせ涙を流して悲しんでいた。


新しい雛型を生み出し、機能させるより他に助かる道は無い。


誰だって死にたくない。生きたい。犠牲になんてなりたくない。


だから、門川君が皆の代わりに代償を払う。


彼は当主だから。

世界を守る門川一族の代表者だから。

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