神様修行はじめます! 其の三
「さあ天内君、いつまでも座り込んでないで立ってくれ。行くぞ」


「どこに!?」


「決まってるだろう。帰るんだよ」


帰る!? 

この状況を無視して!?


門川のために、世界のために、当主のためにと泣き続けている女達の涙を、完全スルー!?


いや、だからってあたしも生贄にされちゃうつもりなんて無いけれど!


それにしたってスタコラお家に帰っちゃいますか!?


あまりにも傍若無人というか、空気読めなさ過ぎじゃない!?


門川君も絹糸も、本気でこのまま帰るつもりらしい。


どんどんあたしから距離が離れていく。


白木の壁際に到着した彼は、右手の人差し指と中指をピンと立て、壁に向かって印を切った。


するとまるでその部分が切り取られたように、楕円形に大きく穴が開く。


おぉ、電ノコみたい!


思わず感心するあたしを置き去りに、ふたりはさっさと穴から外へ出て行ってしまう。


ちょっとマジで置いていかないで!


しかたないからあたしは跳ね起き、後を追った。


チラリと後ろを振り返ると、状況は全然変わっていなかった。


御簾向こうの影は平伏したままだし、刺客部隊も平伏したまま動かない。


侍女達はサメザメと泣き続けているし。


い・・・いいのかなぁ、本当にこのままで。


なんか後ろ髪引かれるんだけど・・・。


あたしが外に出るのと同時に楕円形の穴は消滅して塞がれた。


そこに穴があった事が嘘のように、まるきり跡形もなく。


はぁ、つくづく柔軟な応用性のある便利な能力だなぁ。


家をリフォームする時とかすごく重宝しそうだね。


周囲を背の高い木々で覆われた雪景色の中に、ポツンと道場は建っていた。


森の中の一軒家みたい。ホントどこなんだろここ。


冷たい冬の空気にさらされブルリと身震いする。

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