神様修行はじめます! 其の三
・・・水と油は、決して混じり合えない。


確かにそうなんだけど、でもさ、知ってる?


この世には、『界面活性剤』ってもんが、立派に存在してるってこと。


これさえあれば、なんと水と油は溶け合っちゃうんだよ。


混じり合えない事なんか、実は無いんだよね。


この世界には水があり、油もあり、界面活性剤もある。


梅干おにぎりだってある。


世知辛い世の中だけど、案外、隠れたところで結構うまい具合にできてるんだ。


界面活性剤が気に入らないなら、アルカリ剤だってあるしね。


だから、大丈夫。

生きていける。


この若い命たちが、未来を信じて生きていけるよ。


信じるに足るものが、救われる手段が、世界にはちゃんと存在しているんだから。


あたしのじー様と、永世おばあ様と、お岩さんのお父さんを繋ぐ絆だった梅干おにぎり。


そのおにぎりが、命と未来を繋ぐために、ここで活躍している。


そうだよ。

じー様も、おばあ様も、おじさんも、みんな未来を信じた人達だ。


過酷な世界を生きながら、最期まで信じ抜いた人達だ。


その彼らが遺したものが、彼らが信じた通り、こうして世界を癒している。


・・・すげーじゃん。

さすがは、あたしのじー様じゃん。

やっぱり・・・大好き。



梅干おにぎりを頬張る子どもたちの姿が、ぼんやりと涙で霞んだ。


腕でグシグシ目を擦っていると、肩にそっと手が置かれる感触がする。


振り向くと門川君が、優しい笑顔であたしを見つめてくれていた。


門川君もきっと、あたしと同じ事を思っているね。


あたしは勢い良く鼻を啜り上げて、ニカッと元気に笑顔を返した。

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