__mother <短編>
「待って」


 玄関に向かおうとした男の背に、声が掛かる。

男は、無意識に足を止めた。


「……待って、独りにしないで」

 泣きじゃくって震える女の声に、男は再び呆れる。

こんなときだけなのだ、この馬鹿女は。


「馬鹿くせぇ」

 短く舌打ちをして、ソファに丸まっている女に毛布を投げた。

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