夕凪


唇を離すと、悠斗は悲しそうな顔をして話し出した。


「良かった。
最近、茉咲の様子がおかしかったから嫌われたかと思ってた。」

『だって、そんな話聞いたら誰でも心配する。』

彼はまた、なだめるように私の頭を撫でると、もう悲しそうな表情は消えていた。

「ごめんな。
ちゃんと話しておけば良かった。
でもさ、だからって他の男と遊ぶのはダメだよ。」


涼のことだろう。
どんな状況でも、私を強く叱らない彼を
歯痒く思う私は、間違っているのだろうか。

『あれは、みんなで遊んで帰りに送ってもらっただけだよ。』

「うん、大丈夫。」


それが何を指すのかは分からなかったけど、彼が大丈夫そうでないことはよく分かった。

本当は、あの日。

涼といるところを見て何も言わなかった彼に、不満を感じた。


私は彼の優しさに甘えていたんだ。

欲しいものを "欲しい" と言えない彼に甘えていた。

家族に、"一緒に居たい" その一言を言えなかった彼を知りながら。
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