ケチャップのないオムライス【短編】
「佐和…」
久しぶりに彼の温もりを感じ、変な気持ちだった。
その薄い肩越しに、見える和室の隅の机…
「また、見せてよ。
私、好きなの…
あなたが締切前に張り切って原稿を書き進めるところ…
ずっと、見せてよ…」
彼の着ていたスウェットに私の涙がぽたぽたと落ちる分だけ、彼は頷いた。
何度も何度も、頷いた。
まるで私の言葉を、深く深く刻み込むみたいに…
人間の感情がテーマで、心の痛みや喜びを切実に描いた彼の作品『一喜一憂』が
大ヒットするのはもう少し先のお話…
end