蒼の光 × 紫の翼【完】

若いの和解





「……」

「……」

「……」

「……あの、これって最悪な状況じゃないですか?」

「……ああ」

「……だな」

「ブリザード……これじゃ満足に力が使えないね」




意気込んで外に出陣したものの、生憎の猛吹雪。

体力も気力も全部奪い去ってしまうのではないかというぐらいの強さと速さ。


……鼻が痛い。




「だが、向こうはやる気満々みたいだぞ」

「そうだねー」

「寒さに弱い体質かと思っていたが、とんだ検討違いだったな」

「……なんですかあの竜巻!」

「あれは熱風の竜巻だ。上昇気流を人工的に発生させ、高気圧を作り雲を消し去ろうとしているんだろうが……」

「無駄骨だね。この土地の自然を甘く見てもらっちゃ困るよ」





……なんだか気象の話をしているみたいだけど、わたしはまだ詳しくないし、そもそも専門外だから口をはさめない。

というか、高気圧って作れるもんなんですか?!




「まあ、その心意気は認めてやるさ。次期王様だってそんな無謀なことをしようとは思わない」

「この土地に何年生きていると思っているんだ?そんな竜巻ごときで打開できるとでも考えているのか。ヘドが出る。利用することを知らないのか」

「では、教えてあげるべきだ」

「そうしようか。よし、二人ともいい?せー……のっ!」




三人が手を同時に振ると、竜巻が消えた。


……パッと、一瞬で……




「え、な、何が起こったんですか?」

「僕が風を送って……」

「その風にあの竜巻よりも熱い熱風を乗せ……」

「アルバートの風に水蒸気を含ませ、水に戻し結合反応を発生させ、爆発させた」

「ブリザードは冷たいからさ、熱の上下反応が激しすぎて水が堪えきれなくなって、いっきに破裂!的な」

「まあ、俺たちみたいに力が互角でなければ成せない技だ。理解できていなくてもいい。普段はありえない現象だからな」

「……は、はあ」




……ちんぷんかんぷん。そもそもその原理で合っているのだろうか。もしかしたら本人たちも詳しくは理解していないのかもしれない。





「今ので気づかれたか」

「……あ、本当だ。雪が舞い上がってる。にしても、視界は良好とは言い難いね」

「俺たちはゴーグルをしているから平気だが、向こうはどうだかな」

「……その心配は要らないと思うよ。向こうだってこっちの気候は予習済だろうからね」




実は話しながら歩いて街に近づいていた。

馬は雪の中では速く走れないから置いてきたのだ。

ゴーグル、マント、マスク、手袋、ぶ厚いコート、丈の長いブーツ。

かなり着てはいるが、それはもう訓練済みで慣れているらしい。


腰には長い剣。この剣が今回はメインになりそうだ。

戦士たちの髪とマント、フードが吹雪にさらされてたなびく。




「それで、島はどこにあるんですか?」

「あの山の頂上だ。今は視界が悪くて見えないがな。
……おまえはそちらに向かえ。あとで俺たちも合流する。それまでに片づけられればいいが、そうもいかないだろう」




カイルさんに指定された山は……

わたしたちが初めて会った山だった。

思い出深い山だが、あそこが戦場になるのかと思うと気が重い。


あの女が何を仕掛けてくるかわからないし、そもそも紫族がどんな人たちなのかもわからない。

強いのか、どちらの味方をしているのか……



まだまだ情報不足だ。





「ちっ……早く行け。敵が近い。今度はどうやらラセスもいるようだ。気づかれる前に行け」

「でも……」

「俺たちもあとで追い付く。大丈夫だ。もう迷いはない。おまえの言葉を忘れないようにするさ」

「みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために……」

「お、それいいね。僕も気に入ったよ」

「ほら、早く行け。おまえには立派な足があるだろう?」

「足って……言い方がちょっと……コナー!どこにいるの?わたしを島まで送って!」

『ピャアァァァァァァァ!!』




鷹のような高い鳥の声とともに、黒い影がわたしの目の前に降りて来た。雪が舞い上がる。

後ろからどよめきが聞こえた。やはりグリフォンを目の前で見たことのある人はいないのだろう。




「え、うわっ!グリフォンじゃん!いつの間に手懐けたの?というよりグリフォンって実在したんだ!」

「すみません。お先に失礼します」




わたしはコナーに跨がってみなさんを見下ろした。

と、カイルさんとふと目が合った。


その瞳には心配の色が見えたから、安心させるように笑顔を向ける。





「では、また会いましょう!」





わたしはコナーの背に乗り、大空へと飛びだった。けれど、やはり気になってしばらく上空で旋回することにした。

寒いのは承知だが、やはり戦場というものをこの目に焼き付けておきたかったからだ。



そんなに悪くはない視力をした目を凝らし、その人を探し当てる。


……いた。




もうわたしが元いた場所は戦場になっていた。

三人は固まって応戦している。

剣にそれぞれ力を含ませ、相手を凪ぎ払う。


やはり、二人はケヴィさんの右側を固めているようだ。お互いに助け合いながら戦っている。



……これなら大丈夫だろう。




わたしはコナーに呼び掛け、目指すべきところに向かう。



……三剣士を背にして─────







< 107 / 161 >

この作品をシェア

pagetop