蒼の光 × 紫の翼【完】
ふらふらぱたぱた。
前みたいにかっこよく飛べなかったけれど、なんとか扉までたどり着いた。
ドアノブを掴んで押したり引いたりしてみる。
ガチャガチャと音がするだけでやはりびくともしない。
それに飛んでいて身体が揺れているからなかなかやりずらい。
……やっぱりスライド式なのか?
一度下で待ち構えている4人を一瞥する。
みんなわたしのことを見ていてくれていた。それだけで十分勇気が出る。
どうか開いてくれますように……
そして、封印が解かれませんように……
ただそれだけを思って、勢い良くパシーンとスライドさせた。
やった!開いた!
と思ったのもつかの間、竜巻がわたしもろとも吹き上げる。
危うく天井に激突するところだったけれど、寸でのところで扉の中に飛び込んだ。
そして、男たちも飛び込んで来る。
扉がラセスさんの爪先ぎりぎりのところでピシャンッと閉まって消えた。
そして、訪れる闇。
しかし、固い地面だけがわたしたちを歓迎してくれた。
わたしはふわりと着地できたけれど、4人は派手な音を立てて崩れた。
「いってーなバカ!早くどけよケヴィ」
「その前にアルがどけ!」
「ええ!ひどくない?風をめいっぱい渦状にするのってけっこう疲れるんだよ?!」
「……おまえら、無駄話は後にしてくれ。下敷きになっている身にもなってみろ」
見事に重なり合っているようだ。声から察するに、下からラセスさん、カイルさん、ケヴィさん、アルさんの順みたいだ。
でも暗くてよく見えないけれど。
「はあ、間に合って良かった」
「まったくだ……」
「危うく足が切断されるところだった」
「……で、ここはどこだ?ケヴィ、明かりを頼む」
「……俺は松明ではないがな」
ケヴィさんが手のひらに作った火の玉で辺りを灯す。ラセスさんも灯してくれたようで、より一層明るくなった。
「なんだここは……」
「何かの遺跡かな?」
「それにしても広いし高い」
「だが一本道のようだな」
照らし出されたこの場所は、石造りの遺跡みたいなところ。確かに広くて天井も高いけれど、どこかに部屋があるわけでもない。
あるのは大きな無数の柱。これで支えられているようだ。見上げてもそのてっぺんを拝むことはできない。
風が通っていなければ、物音ひとつしないし、人の気配もまったくない。
ただ、空気が少しひんやりとしている。
「……進むしかないようだな」
「前か、それとも後ろに進むか」
「いやー普通に前でしょ」
「前、か」
「とにかく動きましょうよ」
ぐだくだと悩んでいたわたしたちだけれど、立ち止まっていては埒があかないので足を動かす。
迷宮は砂というか、レンガというか、ピラミッドみたいな素材だったけれど、ここは大理石みたいな石造り。どこもかしこも灰色だ。
すこし黒い筋が石の中にあったりする。なんの石なのかは専門外なためわからない。
「しかし、前に何があるかわからないな」
「おやー?もしかしてカイル怖いの?」
「いや、そう言うわけではない。これでは壁際まで把握できないため見落としがありそうだ、と言っている」
「なら、こうすればいいだろう」
ラセスさんはいつかのパーティーみたいに、火の玉を鳥の形にして飛ばした。
壁や天井、後ろもかなり先の前の方までその光が照らしだす。
「これでいいだろう」
「……だが、やはり何もないな」
「そうだね……」
「せめて曲がり角でもあればな……」
一本道の上をただひたすら歩き続ける。
しかし、行けども行けども柱柱柱。何もない。
本当にこんなところに封印があるのだろうか。
トボトボと歩いていると、急にわたしの指輪が紫色に輝きだして、その光は何かに吸い込まれるようにして漂い流れだした。
「あ、吸収されてる」
「吸収?何に?」
「封印にです。さっきおばあちゃんネズミから教えてもらいました」
「では、この先に封印があるということだな」
「そうですね。ですが、どれだけ先にあるのかはわかりませんけど。すぐそこかもしれませんし、途方に暮れるほど遠いかもしれません」
「……しかし、行くしかないだろう。ここの時間の流れと向こうの時間の流れがもし違うのであれば大問題になる」
「……ヤバいな。早く見つけださなければ」
「そういえば、見つけたらどうするんですか?また封印するんですか?」
探さなければいけないことはわかっていたが、その封印をどうするのかまでは知らないことを今さらながらに気づいた。
なんで気がつかなかったんだろう。
「それを媒体として、封印を増やす」
「増やす?そんなことができるんですか?」
「ああ。やり方は古い本に載っていたからな。増やすにはその人の髪の毛が必要らしい」
「髪の毛?確か結界には血液でしたよね?なぜそんなに身体の一部が多いんでしょうか」
「さあな。しかし、血液は常に新鮮なものが身体を巡り、髪の毛は歴史を刻む。神秘的な部分があるのだろうな」
「確かにそうですね……」
血液は肺で酸素を取り込み二酸化炭素を出す。常にそれは躍動していて、新しい酸素が身体を巡る。
髪の毛は毎日少しずつ伸び続け、その人の生きた証を長年記録する。
この2つとも、人間にはなくてはならないもの。何か神的なベールに包まれているものなのかもしれない。
血液と髪の毛。
ホント、趣味が悪い。いったい誰が最初に作ったのだろうか。
「あ、見えてきたんじゃない?」
「覚悟していたわりには、拍子抜けするぐらい近かったな」
「だが、この大きさは異常だ」
「油断は禁物だ。罠が仕掛けられているかもしれない」
「そのときはそのときですよ!」
「ま、待て!開けるな!何があるかわからないんだぞ!」
「開けるなと言われると開けたくなるのが人間っていうものですよっ!」
カイルさんに止められたけれど、わたしの好奇心は旺盛だから制止も聞き入れずにその大きな扉に走り寄った。
さらに指輪の光が濃くなる。
ここで正解かな?
わたしは少し躊躇った後、意を決して大きな扉を押した。
徐々に開き始める扉。門と言っても差し支えないほどにギギギ……という音をたてながら光を漏れ出させる。
……この先には何が……?
真っ白でまったく見えない門の先。
光が一段と大きくなった、と思ったら、男が4人も手伝って押してくれていた。
皆それぞれ神妙な面持ちで視線を交わす。
この先に待っているのは、果たしてなんなのだろうか……
真っ白な光がわたしたちを包み込み、思わず目を閉じてしまった─────