蒼の光 × 紫の翼【完】
あ……カイルさんが目の前にいる。
汗をいっぱいかいて、頭を抱えてうずくまっている。
……何が、起きているんだろう。
無音の世界。けれど、わたしの視界は動く。
少し下を見たかと思ったら、その手には、短剣が握られていた。それをカイルさんに突き付けている。
……え?これは、何?今起こっていることなの?どうして、わたしはこんなものを持っているの?
気がつくと、その短剣を両手で握り、カイルさんの心臓を今にも刺そうとしていた。
……やめて。やめて。やめて。
動かないカイルさん。動けないのかもしれない。
そして、わたしの腕が少し動いて────
「いやあぁぁぁぁぁ!!!!」
わたしは声の限り叫んだ。
「おい!カノン!しっかりしろ!大丈夫だから、落ち着け……」
「カノンちゃん?!大丈夫?」
しばらく暴れていたけれど、そんな声が聞こえてきて動きを止める。
……ここは……元に戻って来たんだ。わたしは……
ケヴィさんに羽交い締めに近い状態で抱き締められていて、なんだか申し訳なくなった。
「す、すみません……取り乱してしまって」
「いや、いい。それより、何があったんだ?かなり魘されていたぞ」
「倒れた直後から汗が吹き出てきて、動機も激しいし……本当に、大丈夫?」
「はい……大丈夫です」
ケヴィさんはわたしから身体を離すと、座り直して改めて聞いてきた。
……取り敢えず落ち着こう。
「で、何があったんだ?」
「……夢なのか現実なのかはわかりませんけど、カイルさんを見ました」
「カイル殿を?」
「はい。すごく苦しそうで…それで、わたしは誰かの視点からそれを見ていて…それで…その人の手には短剣が…握りられていて…それで…」
「落ち着けカノン、ゆっくりでいい」
ケヴィさんにそう言われても一息おく。
「は、はい……その短剣をカイルさんの左胸に当てて、刺しそうになった寸前で起きました」
「「「…………」」」
重苦しい沈黙。それはそうだろう。現実に起きていることなら、カイルさんは今かなりのピンチに会っていることになる。
しかし、わたしはまだ見ていない。カイルさんはその後生きているかもしれないし、そもそも今実際に起きていると決まったわけでもない。
希望は、ある。
「気長に、カイルさんを待ちましょう」
「……ああ。そうだな。それしか俺たちにできることもないしな」
「第一、カイルは死なないよ!死ぬはずがないじゃん!」
「カイル殿は、ひとりでも強い男だ。俺に説教までしたくせに、簡単に死んでしまっては困る」
「え、そうなんですか?ぜひ聞きたいです」
「時間はたっぷりとあるしな。ついでにラセスのことも教えてくれ」
「……俺に身の上話をしろと」
「そうだ」
「なら、おまえもしろよ。どう見たって王族に見えないおまえがその刻印を持っているのか、不思議に思っていた」
「……墓穴を掘ったね、ケヴィ」
「……言うなそれを」
「ぷっ」
「笑うな!」
「す、すみません……」
こうしてわたしたちはお互いのことを語り合いながら、首を長くしてカイルさんの帰還を待った。
「──んで、なぜカノンが女だって知ったかというとな「それは止めてください!言わないでください!というより言わせませんからそこは!」
「え、なになに?なんで?」
「それは……「それはだな、ふ「わーわーわー!言わないでくださいってば!聞いてるんですか?」
「右側で言われても聞こえないんでな」
「あ、逃げた!うまくかわした!……ってちゃんと聞こえてますよね?!」
「風呂で「だから言わないでください!」
「……その展開だと、風呂で裸を見た、ということか?」
「そうそう。それだ」
「……」
「……なんか、殺気を感じる……」
「……確かに」
「それは、俺のせいだったりするのか?」
「あーたーりーまーえーでーすー!!!」
わたしがラセスさんに八つ当たりをしたのは言うまでもない。
「だが、俺も見られてな、カノンはそれを夢でまた見やがって」
「見てません!腹筋までしか見てません!」
「しか、って言ったよねカノン。それだと見足りないって感じに聞こえなくもないかな……」
「はっ!……」
「……なんか、印象変わった」
「わー!誤解ですラセスさん!誤解ですっ!」
「……墓穴を掘ったね」
「ううう……」
「確かに、カノンは嘘が下手みたいだね」
「だろ?どうやってアルを騙したのか検討もつかないくらいだろ」
「そうだねー」
「……もう、やめてください……わたしの話はもういいですからぁ……」
「俺としてはカノンの話は魅力的だが、アルバート殿の婚約者との馴れ初めも気になるところだ」
「まさに鶴の一声ですラセスさん!さすがです!さあ、アルさん?聞かせてもらいますよ?」
「僕に矛先を向けられたの?!」
……しばらく赤裸々話は続きそうです。