蒼の光 × 紫の翼【完】
「ここって……神出鬼没な扉を開けたときに出た廊下だね」
「そう言われてみればそうですね……」
アルさんの言葉でラセスさんがまた火の鳥を飛ばす。
後ろにそびえる大きな門も、わたしたちの目の前も赤く照らす。
「あっ!」
「ん?どうした?」
「上!上見てください!」
わたしが火の鳥を目で追って上を見上げると、あるものが目に入った。
ケヴィさんが聞いてきたので、指で差して教えてあげた。
「な、なんだこれは……」
「どうなっているんだ?」
「あれって……僕たちじゃん」
そう、上にはわたしたちの頭の天辺、つまり、反射しているのだ。
水が満たされていて、それが鏡のようになっている。さらにその水の向こうにも床があり、天井がない。床、水、床と、この大きな廊下は隔たれているようだ。
「どうなっているんだろう……」
「不思議な感じだな……向こう側にも空間があるようだ」
カイルさんの言葉にラセスさんが頷く。
「ああ、確かに。この世界とは別の世界があると言っていたな。それは遠い存在のようで、実は近いところにあるのかもしれない」
「紙一重ってやつか?実は隣にあるのかもしれないぞ?意外と」
「ケヴィもおもしろいことを言うな。違う世界にも俺たちはいるんだろうか」
「いますよ、きっと。そこでもこうやって仲良く肩を並べて歩いているはずです」
「そうか?」
「そうです。皆さんはもう仲間ですよ。友達です。敵味方関係なくこうやって行動を共にしているんですから」
「……まあ、そうだな」
ラセスさんは恥ずかしそうに顔を指で掻いている。火の鳥はなぜかはわからないけれど、嬉しそうにピャーと鳴いた。
「えっ!この鳥鳴けるんですか?」
「当たり前だ。意志はちゃんとある。俺の龍にもな」
「僕の鷹にもね」
「狼にもある。俺たちはそいつらと契約をするんだ」
「契約?そんなのするんですか?」
「知らなかったのか?」
あの力で造った生き物たちはただの形だけだと思っていた。力を使っている人が操って、力がその通りに飛躍していると思っていたけれど、どうやら違ったようだ。
水の龍にも、風の鷹にも、炎の狼にも、火の鳥にもそれぞれ意志があるなんて……
おもしろい。
「例えばこいつ。こいつは甘えん坊でな。いつも俺の近くを飛び回っている」
ラセスさんは一羽の火の鳥を指差した。
……見分けがつくって言うこと?
「あそこを飛んでいるのは強引なやつで、あいつは恥ずかしがりや。あいつは人見知りが激しくてな……」
「もう、いいです十分です。よく見分けがつきますね」
「それはそうだろう。パートナーだからな。俺たちはこいつらを契約と言う名で縛っている。あいつらが何を思い感じているかはわからないが、俺たちは愛情を持っている」
「ラセスにはたくさんいるが、俺には1人しかいない。龍だけだ」
カイルさんはそう言うと、水の龍を出現させた。細長い身体に水の鱗がびっしりと並んでいる。角もヒゲも爪も何もかもが水だけれど、その瞳には意志を感じられる。
水の龍はカイルさんに寄り添うと、その頭を撫でてもらえてまんざらでもなさそうだ。
「ふふっ……かわいいですね。こうして改めて見てみると」
「お、わかるか?特にこの牙。すごいだろ?」
「わあ、立派な八重歯で……」
「俺の狼はまだ子供なんだ。まだまだ大きくなるぞ?」
「え、まだ子供なんですか?暴走していたときはすごく怖かったんですけど……」
「それは俺を護ろうとしたからだ。仲間意識が高いからな」
「僕の鷹はつがいが多くてね。だいたいはタッグを組んで攻撃しているよ」
話を聞いている限り、皆さん楽しそう。よっぽど自慢のパートナーなんだな。こっちまで楽しくなってくる。
それに反応して、火の鳥も元気よく炎の余韻をたなびかせる。
「どうやって契約するんですか?」
「夢の中に出てくるんだ。そこで一緒に遊んで仲良くなって、品定めをされた後満足できる相手だったら契約終了」
「遊ぶんですか?」
「子供の頃に契約をするからそうなるんだ。俺たちは選ばれる。俺たちが選ぶのではなくな。一生付き合うパートナーだ。俺たちには選ぶ権利などない。縛る相手を選んでは公平ではないだろう?」
「でも、そもそもどうして契約なんて……」
かわいそうだ。もし主がとんでもない人だったら、殺人をやらされるかもしれないのに。
「それは人類の謎でもあったが、もうその謎は解けた」
「え?わかったんですかラセスさん」
「僕もわかったよ。その水月とかっていう龍たちがそうさせているんじゃないかな?監視というか、暴走しないように。お守り役を派遣すれば均衡は保たれるはずだよ」
「……なるほど。皆さんもそう思ってるんですか?」
わたしの言葉に同時に強く頷かれた。
すると、不意に水の龍が近づいて来て、わたしの目の前に止まった。
「どうしたの?」
わたしが問いかけると、龍は頭をずいっと近づけて来た。
わたしが首を傾げていたけれど、カイルさんが教えてくれた。
「撫でろ、だとよ」
「え、でも……いいんですか?」
「本人が望んでいるんだ。不満はないだろう」
今までただの水だと思っていたけれど、急に愛着が湧いたわたし。心があったなんて、ちっとも想像していなかった。
そっと手のひらをかざすと、龍自らがその額を押し当てて来た。
「あっ……」
わたしの頭の中にイメージが流れて来る。