蒼の光 × 紫の翼【完】

選択




お母さんは言っていた……途切れ途切れだったけれど、これまでの記憶でだいたい予想はつく。



わたしの能力は瞬間移動と記憶操作だと。



どうやるのかはわからない。けれど、お母さんを助けに行かなければ。

だから、もし封印に鈴が必要ならカイルさんに渡しておけばいいと思った。


同時進行で護るんだ。皆さんに言ったところで上手く説明できないし、納得してもらえるはずがない。


絶対に止められる。危険だって。


紫姫が衝突するなんて前代未聞なことだから、何が起こるかはわからない。わからないことだらけだ。


でも、向こうは本気なんだ。本気でこの世界を壊そうとしている。この美しい世界を。壮大な世界を。

決して地球では味わえない自然の恵み。そして上手く適応した人々の姿。


さらに、力を駆使して生活の糧にしている。

こんな魅力的な生活スタイルが無くなってしまうなんて、もったいない。


壊すのは簡単だけど、戻すのは難しい。


と、環境保全で良く聞く。絶滅した動物は二度と甦らない。最後の一匹になったものの運命はあまりにも酷すぎる。


……その一匹は、わたしの本当のお母さんのことでもある。


世界を滅ぼしたとして、何が残るのだろうか。

ひとりでは人間は何もできない。できやしないのだ。


それを、どうして理解しようとしないのだろうか。


嫉妬にとり憑かれた願望だけで、仲間を、家族を人柱にしてしまった。



……わたしが、わからせてあげるんだ。

あの整った顔をぶん殴って、わからせてやる。


世界は大きいんだってこと。

世界はどんな人でも、その包容力で全員平等に包み込んでくれるってこと。



……行かなくちゃ。あの島に。



大きな島を仰ぎ見る。きっと、あのとんがったタワーみたいな建物にいるはず。

迷宮で見た内装とは同じなのか異なっているのかはわからない。何かワナがあるのかもしれない。



でも、それでも行く。皆さんには悪いけど内緒で行かせてもらう。


……これは、わたしたち家族の問題だから。





あの島……あの島……できればあのタワーの中に……



わたしはそう強く願う。お願い。わたしを送って……


もう身体の一部と化した、紫色のオーロラ石のペンダントをぎゅっと握る。



お願い。わたしは護らないといけないの。お母さんも、この世界も。




不意に、チリンという音がした。それと同時に身体を浮遊感が包み込む。

……目を開けてると、遥か眼下に大きな丸い物。


……これって、星?



そう、ここは宇宙。上にも下にも暗闇と光り輝く星たちが散りばめられている。

でも、息はできるし、変な感じ。


もう一度、眼下にある星を見る。

……きれいだ。とても。地球とは似て異なる自然。大地の配置も形も、海との割合も全然違う。


けれど、力強さを感じる。パワーがみなぎっている。



そうやって眺めていたら、突然何かに引っ張られる感覚がして、身体が急降下する。

何かに吸い込まれるようにして、歪むわたしの残像。


……酔いそうだ。




喉奥に込み上げてくるものを我慢していると、爪先に硬い感触が伝わって来た。

そして、いっきに重力が戻る。



「……うぐっ」



戻った重力のせいで危うく吐きそうになってしまったけれど、なんとか乗り切る。


そして、汗をかきながらゆっくりと辺りを見回した。




ここは……どこだ?成功したのかな?



明らかに地上の文明ではない構造。石造りでもなければ、木造でもない。


……まさか、コンクリート?


コツコツと指の関節で叩いてみたり、撫でたりペタペタと手のひらを合わせてみた感じ、白く塗られたコンクリートのような気がする。

じゃあ、ここは島の内部で合ってるのかな?それなら大成功だ!


……でも、地球の科学をこれに活かしたってこと?でもそうすると年代が合わないはず。

いくら時間の流れる早さが違うからって、初代紫姫のララさんがそんな近代の地球に行ったとは思えない。

それに、島はすでにあったのだ。ララさんが帰ったらすでに……


ララさんと紫族には最初は接点がなかったはずだ。記憶の通達とか、共有とかをする手立てがあったら別だが……


……いや、待てよ。この島を造られたのはフリードだ。創世する神のフリードがジークに教えたんだから……十分あり得るのか。


先にこちらでコンクリートが使われてもなんら不思議はない。


じゃあ、まさか……光線とかって……レーダー?


でも、光線と言う言葉はこちらの世界でも存在している。スライドは通用しなかったけれど、確かに理解してくれた。


……ぬぬぬ……わからない。この世界にも光線と言える文明があるのかも。その言葉に該当する物は見なかったのにな……



謎がたくさんあるけれど、わたしはその思考をいったん止めて、今やるべきことに集中する。




……お母さんどこにいるんだろう。


どこまでも続く白い廊下。取り敢えず、あんなにとんがっているのだ、上に行けば何かあるはず。

でも、光線の発射口は下だ。


……どっちがいいんだ?お母さんを早く助けてしまえばなんの問題もない。

それに、鍵はわたしが持っているのだ。光線は使えないはず。



……だとしたら、上に行くしかない。この選択に全てを委ねる。


指輪のある右手をぎゅっと握って、走り出す。



……全部、全部わたしが護るんだ。誰ひとり欠けずに、平和な世界を、以前のこの世界を取り戻すんだ。






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