蒼の光 × 紫の翼【完】
最後の晩餐
「こんなものですかね」
「……すごい。これ本当にわたし?」
「何言ってるんですか!当たり前です」
「おー……ほー……へー……」
やはり5時から祭りが始まるようで、窓を閉めた後リリーちゃんがやって来た。
こんなに早くに準備って何するんだろう……と思っていると、洗面所で鏡の前に座らされた。
そして、シャキーンと取り出されたのは、メイクセット。エプロンの影に隠れて見えていなかった。
そして、手際良く変身させられるわたし。
お恥ずかしながら、化粧の化の字も知らない。そんな自分が粧の字まで取り入れた瞬間、別人になってしまって驚いた。
女は化けると言うが、全くその通りだと思った。女の子が女性になるのだ。
声を出して感心しきっていると、今度は髪を弄られる。
わたしは鏡に身を乗り出すのを止めて、やりやすいように椅子に座る。
「それにしてもカノン様、会った当初よりも髪伸びましたね」
「そ、そう?自分じゃわからないや」
「はい。もう男のフリは厳しいぐらいまでの長さですが」
「……つまり、女の子としては短いってことだよね」
「そうなりますが、髪がサラサラで良いですねー。羨ましいです」
「そんなことないよ。リリーちゃんだってストレートじゃん」
「いえいえ。クセがあるので結わいているんですよ?仕事柄結ばないといけないということもありますが、普段も結んでいます」
少しふて腐れながら言われてしまった。
なるほど、だからいつでもどこでもひとつ結びなのか。納得納得。
「いろいろと髪をセットしたいところですが、さすがに少し短いですね……香り付けだけにしますか」
「香り付け……」
そんなことも初めてなわたし。女子高生としてどうなのよそれ。女子力の無さに今さらながらに呆れた。
少しどよーんとしていると、洗面台に並べられる小ビンの数々。色がいろいろあって見ているだけでおもしろい。
「これは……シトラス。そしてラベンダー、ローズ、アップル……いろいろありますが、どれにしますか?」
「……付けなきゃダメ?」
「ダメです。おしゃれをしましょう!もっと自分を前面に押し出すんです!」
「まあ、折角だし……」
化粧をして化けたのだ。それならもうとことんやってやろうじゃん!
思いっきり楽しむんだ今夜は!そして、潔く散って行ってやる!
「うーん……どれがいいんだろう……」
「シトラスはどうですか?爽やかな香りですし、そんなにしつこくありませんよ?」
「……じゃあ、それにしようかな……」
「かしこまりました!」
リリーちゃんは黄色い小ビンを手に取り、透明な液体を馴染ませ髪に擦り込む。
そして、変身したわたしが完成した。
「いやーホント、あなた誰?って感じ」
「ふふふ……もしかしたら皆様一目ではわからないかもしれませんね。こうしたわたし自身でさえ、カノン様とは思えませんもん」
「あはは、それひどい。リリーちゃんも変身するんでしょ?」
「自分の分は後回しです。さあ、着替えますよ」
「え、普通化粧が後でしょ?」
「そこは気にしなくていいんです!本当はその格好のままで良いと思ったんですけど、計画変更です。とことん皆様を驚かしたいんです!時間はたっぷりありますからねー……」
不適にニヤリと笑みを溢すリリーちゃん。
時々ひやっとするときがあるんだよねーこの子は。
と、リリーちゃんが部屋から飛び出しすぐに戻って来た。
その腕にはドレスとドレスとドレスがたくさん。
それをベッドに広げた後、また出て行ってまた戻って来た。
その腕にはヒールのある靴と靴と靴がたくさん。
……とことんやる気らしい。
「さあ、カノン様!選びますよー」
「……」
こうしてわたしはリリーちゃんの着せ替え人形と化し、5時を過ぎてしまったのは言うまでもない。
「カノン様……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。疲れただけ」
「少しやり過ぎましたかね?でも、気合いを入れましたからね。自信作です!」
自信作……わたしが完全に物になっている。
「ところで、リリーちゃん。リリーちゃんは化けなくていいの?」
「あ……少々お待ちください!すぐに終わらせますから!」
また部屋を出て行くリリーちゃん。きっと、廊下にいる護衛二人は驚いているに違いない。
こんなに慌ただしい侍女がいるのかと……