蒼の光 × 紫の翼【完】
またね
朝起きたら素っ裸だったため、幻滅した。
俺って昨日そんなに飲んだか?
どうやって帰ったのかさえもわからない。
ダルい身体を起こし、軍服に腕を通す。
ふと、テーブルの上に青い石と鈴がひとつ置かれていた。
青い石の方はいつどこで手に入れたのかは覚えていない。しかし、俺の身体の一部と化してしまっているため、もう違和感はない。
だが、鈴の方は見に覚えがない。誰のだ?俺のなのか?
しかし、捨てる気にもなれずに胸ポケットに突っ込む。
なぜか、手離したくなかったのだ。
身支度を一通り済ませると、布団を整える。
それはやりなさい!と母さんから昔から言われているのだ。
……ふわっと微かに香ったシトラスの香り。
気のせいか?俺はそんなもの付けていないぞ。
朝から変なことに意識が飛んでいく。相当飲んだのかこれは。二日酔いではないと思うんだが……
首を傾げながら部屋を後にした。
そして、ある人の石碑を目指す。昨日俺たちだけで騒いでしまったからな、せめてもの餞別品だ。
一杯の酒と一輪の白い花。
外はまだ寒く、白い息が目の前を舞っている。
そしてたどり着いたとき、またしても俺は首を傾げた。
一輪の白い花。先客が来たようだ。誰だこんな時間に……
多分まだ摘みたてであろうその花は、圧倒的な存在感があった。
俺では太刀打ちできないほどの強い意志。
しかし、おかしいのだ。わりと小さめな足跡があるのはわかるのだが、二つしかない。つまり、ここまでたどり着いた足跡が全くないのだ。
起きてから不思議なことばかりだ。
しかし、俺も負けじと酒と花を地面に置く。
そして手を合わせた。
これから怒涛の毎日が繰り返されるだろう。新しい決まりがこれから作られていくからだ。
新しい世代が、新しい時代を築く。
俺ももうすぐ王に昇格する。実は昨日父さんが、譲ると言って来たのだ。
『僕たちの世代は時代遅れとなってしまった。今度は君たち若者が先導者となる……まあ、ただ単に早く王様辞めたくてね、譲ると言うよりは押し付けるに近いんだけど』
と明るく笑ってはいたが、内心不安でいっぱいだろう。若造の俺が王になって、この国がどう変わるのかは誰にもわからない。
しかし、仲間も先導者もたくさんいるのだから、手探りで進むしかないのだ。
暗中模索の中から脱け出した時、俺は立派な王になれているのだろうか。
じいさんみたいな師匠のような存在の人はもう俺にはいない。俺はじいさんの弟子だ。
よく言われたんだ。
『言葉遣いをなんとかせい!仮にも王になる男じゃろうて!わしが教えてやろうか!』
……じいさんの方がよっぽど強い言い方だったよな。
「あ、カイルおはよう……」
「二日酔い野郎……」
「やめてよその言い方……」
城に戻り書斎室に向かう途中、アルバートと出くわした。頭を手で押さえているため、頭痛がするのだろう。
「そういえば、カノンは?」
「誰だそいつ」
「ん?あれ?誰だっけ……そんなにひどいのかな頭痛。薬もらって来ようかな」
「そのほうがいいだろう」
ふらふらと呻きながら引き返している。俺ももらった方がいいだろうか、薬。朝から変な感じがする。
何かが足りないのだ。何かが欠けている。
その何かは検討もつかないが、とても大切な事だったような気がしなくもない。
しかし、思い出そうとすればさらにモヤモヤとして深くまで戻ってしまう。
……くそー、気持ち悪い。やはり二日酔いか?俺も薬をもらうべきだろうか。
と、振り返るとルーニーが眠そうに歩いていた。
俺に気付き慌てて姿勢を正す。
「お、おはようございます!カイル様!」
「……ボリュームを下げてくれないか?頭に響く」
「……大丈夫ですか?兄貴と同じこと言ってますけど」
「……あいつと同じにするなよ」
「いやー、あははは……そうですね。兄貴の方が重症ですね。ところで、あいつは?」
「あいつ?リリーのことか?」
「え、いえ……あれ、そうです、リリーです。なぜか見当たらなくてですね」
「俺も知らん」
「そうですか……失礼しました。お大事にしてください」
「ああ、アルバートにも言ってやれ」
「ははは……もう言いましたよ。でも、大事にしたいのは自分じゃなくて俺の天使だけだー、とふざけたことを言っていましたけどね」
「……重症だな」
「そうですね。では」
……アルバートのやつ、そんなことをほざいたのか。さっきはまだマシな応対だったようだ。
書斎室に入り、窓を開けて換気する。
冷たい風が頬を撫で気持ちがいい。
山にはまだ雪が積もっていないようで、気候が回復するにはまだ時間がかかるようだ。
木が青い葉をつけ、場にそぐわない環境を作り出している。
しばらく黄昏ていると、ひらひらと上から何かが降ってきた。
俺はそれをキャッチする。
「羽……?」
それは、一本の羽。手のひらサイズの紫色の羽だった。
こんな鳥がここら辺に住んでいたか?初めて見たぞ、この色。
しかし、安心感を与える色だった。懐かしさを感じると言ってもいい。
「誰だ……?」
一瞬、女性の笑顔が脳裏にフラッシュバックした。
辛うじて笑っていることはわかるが、細部まではわからない。
やはり朝からおかしいようだ。皆のところにでも行くか。話をすれば、だんだんいつも通りに戻っていくかもしれない。
俺は羽を机に置き、窓を閉める。そして、食堂に向かった。