蒼の光 × 紫の翼【完】
「あ、おはようカイルー!」
「母さんも声でかい」
「あ、あら……ごめんなさい。昨夜が楽しかったものだから、そのままのテンションで言ってしまったわ」
「すごいね君は。あんなに飲んで平気だなんて」
「え、そうかしら。そんなに飲んだっけわたし」
「僕と競争して勝ったじゃない……」
「あら、そうだったわね!まだまだねあなたも」
「……これ以上どう強くなればいいんだろうね」
「でも、ナリアには負けたわー!くやしー!」
「彼女は昔から酒豪だからね、勝てる人はいないと思うよ」
昨日の話で盛り上がっている両親。見当たらないと思っていたが、まさか競争をしていたとは。
しかもナリアさん相手。アルバートが彼女の息子だとは到底思えない。
「あら、そう言えばあの子は?」
「あの子?誰だい?」
「ええっと……誰だったかしら……あ、そうそう、リリーちゃんよ。仕事熱心だから食事を運んで来るのはいつもあの子じゃない?でも今日は顔を見せていないのよねー」
「寝坊、とか?」
「ええっ!まさかぁ。あの人の娘さんよ?あり得ないわよ」
「ふーむ、どうしたんだろうね……」
と、カチャカチャと食器の擦れる音が近づいてきた。
そちらを向くと、母さんつきの侍女が食事を乗せたカートを押しているところだった。
「あ、ねえ!リリーちゃんはどうしたの?」
「はあ、それがですね……部屋から出て来ようとしないんです」
「……反抗期?」
「違うと思うよそれは……」
「なぜか涙が止まらないらしくて……こんな顔を皆様にお見せできない!と閉じ籠っています」
「どうしたんだろう……女の涙には理由がつきものなのよ?もしかして……ルーニー君と何かあったのかしら」
「それはない。今朝ルーニーに会ったが、態度に変化はなかった」
「そうですか……困った子です」
「よし、わたしが話を聞きに行ってあげなくちゃ!」
「待て待て待て。先に朝食を食べよう」
「……それもそうね」
我ながらこんな母親が王女だったとは幻滅する。子供時代の話を聞く度に、お転婆だった、手のかかる子供だった、いたずらっ子だった……
とにかく束縛が大嫌いな子供だったらしい。
「じゃあ、いただきましょうか!」
「うん、今日も美味しそう。ちゃんといただくのはいつ振りかな」
「二年前かもしれないわね」
「……王としてどうなんだその発言」
「こんなグダクダな王様だから、君に譲ってあげるんだよ。ありがたく受け取ってね」
「そう言う問題ではないと思うが……」
「まあまあ、冷めない内に食べちゃいましょうよ。バターをちょうだい」
「かしこまりました」
こうして食べる食事に使われている材料の中に、ケヴィが作ったものが入っているのかと思うとペロッと平らげることができる。
……俺も今度何か作ろうか。
食事が終わり、書斎室に戻った。
そこにはげんなりとしているアルバートがだらしなく座っていた。
「気持ち悪い……」
「無理するな」
「やらない方がもっと無理だから……側近休むとか、冗談でも言えないよ」
「……おい、ここにあった羽、知らないか?」
「さあ?気がつかなかったな。でも僕が気づかないんだから、来たときすでになかったのかも」
「……そうか」
少し残念だが、無くなったのなら仕方ない。
「ええっと……今日は─────」
アルバートがタラタラと業務連絡をしているが、だんだん念仏に聞こえてくる。呂律が回っていないぞ側近さん。
こうして、俺の1日がまた始まった。
いつもと変わらない、日常が────