蒼の光 × 紫の翼【完】
わたしを見つけてくれてたのはシリウスらしい。いきなり方向転換して、走り出したのだそうだ。
二人は最初、敵襲か?と思ったみたいだけど、急にぴたっと止まって、鼻で地面の雪をかきわけ出したしたと思ったら、わたしの頭が出てきたってわけ。
「わたしってそんなに埋まってたんですか?」
確か意識を手放す前は、そんなに埋まってなかったはず。
「うーん、まあ、一目ではわからないかな。僕は最初、カノンは死んでると思ってたんだよ。
でもね、カイルが抱き起こしたときに、盛大にくしゃみをしたから驚きを通り越して笑っちゃったよ!」
「ひ、酷くないですかそれ?!」
「だって、死人がいきなりくしゃみをするんだよ?笑っちゃわない?」
と言うや否や、アルさんはそれを思い出して笑い出してしまった。完全に笑いのつぼがおかしい。
わたしはそんなアルさんに膨れてみせる。
「……そんなに笑わないでください!」
「あははははははは!」
「アルさん!」
「くくく……腹痛い!」
「……聞こえてない振りしてません?」
わたしはだんだん脱力してきた。絶対わざとだわざと。わたしはふん、とそっぽを向いた。
「……そろそろいい加減にしろ」
「はーい、わかりましたよ」
アルさんはさっきまでの笑いを嘘のようにぴたっと止めた。
「……意外と意地悪なんですね」
「……」
アルさんはどこ吹く風、といった感じでわたしの言葉を無視した。
そのとき、ザッザッザッ……と足音が近づいて来た。馬が二頭、不思議そうにわたしたちを見ながら歩いてきた。
「あれ?どこかに繋げていないんですか?」
「いざという時は逃げられるようにしている。もし何かが起きた場合、馬たちだけは城に帰し、俺たちの身の危険を知らせる手筈にしてある」
「へえ~、頭が良いんですね」
わたしは黒と白の馬のうち、黒い馬の方に近づいてその鼻面を撫でた。
「助けてくれてありがとう」
わたしがそう言うと、ブルルルルッと鳴いて、わたしの手に頭を擦り付けた。
もっと撫でて欲しいようだ。
「こう?」
頭を上から下、上から下、と優しく撫でてあげた。黒い馬は満足そうに目を細めている。
「だから言っただろう?問題はないと」
「こりゃまたびっくり!なついてる!でもそれ以上に不思議だなぁ。
ねぇ、カノン!なんでこの馬がシリウスだってわかったんだい?」
「え?」
わたしは撫でる手を止めた。
確かに。わたしはまだどっちがシリウスでハリーか聞いていなかった。
「えーっと……勘、ですかね。それに、黒はカイルさん、白はアルさん、って感じがします」
「なるほどね。そうかもしれない。カイルは暗いもんねー」
「……」
最後のねー、はカイルさんに振ったみたいだけど、ものの見事に無視されている。
「……時間をだいぶ無駄にした。おまえはどちらに乗るんだ?」
「……シリウスにします。わたしになついたようですし。カイルさん、よろしくお願いします」
「ちぇっ。カノンと乗りたかったなー」
「……おまえはしばらく黙っていろ」
へいへい、とアルさんは慣れた動きでハリーに跨がった。
カイルさんもシリウスに跨がる。そんな二人を見てあたふたとしているわたしに、カイルさんが手を差し出してきた。
「掴まれ」
「え、えーっと……」
「……早くしろ」
「は、はいぃぃぃ……」
カイルさんの早くしろオーラが怖すぎて、変な返事になってしまった。
わたしは女の子に似合わず、よっこいしょ、と声をかけて、カイルさんに引っ張られながら跨くことができた。
い、意外と高いな馬の上って……。ちょっと怖いかも。
…………え、えっと待てよ?ちょっと待って?この体勢って……
カイルさんの胸に背中を預ける体勢になってるぅぅぅぅ!
わたしは恥ずかしくなって、背中に力を入れ体重をかけないようにした。そんなわたしを余所に、シリウスは歩き出す。
「危ないからもっとくっつけろ」
カイルさんに小声でそう言われると、肩を寄せられた。またくっつく。
「この方が暖かい」
「あ、ありがとうございます……」
「……おまえ、俺に会ったことがあるか?」
「へ?……」
な、なにいきなり?
「……いや、いい。今のは忘れてくれ」
「はい……」
び、びっくりしたぁ……。ここは異世界なのに、会ったことがあるわけないじゃん。
それに、カイルさんみたいなイケメンと言うか美男子と言うか、そんな男の人に会ったこともないし。
とかなんとか思っていたわたしだけど、馬の揺れ具合と、筋肉質な胸の安定さ、それと疲労のピークで眠りについてしまった。
「カノン……か。なぜか懐かしく感じる」
わたしにはその小さな呟きは聞こえなかった─────