蒼の光 × 紫の翼【完】
うーん、なんだか眩しい……
わたしはそう思って、目を開けた。
そこには、見たことのない天井。石造りのやわらかな淡い色をしている。
そして、天窓のついたベッド……
……ベッド?!
わたしは、がばぁっと布団を押し出して勢いよく上半身を起こした。すると、おでこがゴチッと何か固いものに当たって、目の前で火花が散った。
「いってーなこのバカ!」
「っ~~!」
わたしはおでこを手で押さえつけて、バカと言ってきた相手を涙目で見た。
そこには金髪で緑の瞳をもった男の子がいた。わたしと同じくおでこを押さえている。
どことなくアルさんに似ていると思った。
「様子を見て来いって言われて来てみれば、とんだ災難だよまったく!」
「ご、ごめんなさい……」
なんだかご立腹な様子。ここは素直に謝った。
わたしは気になることを口にした。
「あの、アルさんに似ているって言われませんか?」
「ああ?当たり前だろ兄弟なんだから!見てわからないのかこのバカ!」
そんなバカバカ言わないでほしい。ドジとは言われるけど……。それに逆ギレもして欲しくない。
「性格は全然似てない……」
「似てなくて悪かったな!だが兄貴の方が断然怖いね!内心は怒っているあの笑顔を見たら……」
さっきまで顔を赤くして怒っていたのに、今は顔面蒼白だ。
「あ、それ見たかもしれない……」
あの、小屋で質問をされていた時だ。笑顔なのにだんだんと声色が変わっていって、剣を突き付けられて……
わたしも顔から血の気がひいてきた。
「だろ?普通に怒鳴られるならまだマシな方だろ?俺がこの間兄貴の部屋に忍び込んで、大事な書類にインクをこぼしちまった時なんか……」
「……今ここで再現してあげようか?ルーニー」
ルーニーと呼ばれた男の子の後ろを覗き込むと、ドアがあった。
そして、そこには腕を組んで、背中をドアの横の壁に預けているアルさんが立っていた。顔はにこにこしてるけど……
ルーニー君は首をギギギ……と機械みたいな音が出そうな動きで振り向いた。
「あ、兄貴……兄貴が直々に来るんだったら、俺が行かなくても良かったんじゃ……?」
「僕が忙しい立場だってことを知らないのかな?それも含めて再現しようか?」
にこにこっ。
「け、結構です。それならば早く公務に戻られた方がよろしいのでは……?」
「人の顔色を窺って口調を変える弟にもその公務がなんたるか、を教えてあげた方がいいのかなって思ってね……。
こうして出向いて来たんだけど、迷惑だったかな?」
にこにこにこにこっ。
「ご、ご、ご……」
「ご?」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!」
ルーニー君は顔をさらに真っ青にして、この部屋を脱兎のごとく出て行ってしまった。
わたしはそのやりとりを、ただポカンとして見ていた。
「ごめんね、口の悪い弟で。おでこ大丈夫?なんか赤いけど」
ひんやりとした感触がおでこに当たって我に還った。
「あ、だ、大丈夫です。問題ありません……」
「そう、良かった。もしこれが僕の弟のせいだったら、僕が怒られちゃうし」
アルさんはそう言うと、肩をすくめた。
「ところで、君はとんだ眠り姫だね。自分がどれだけ寝ていたかわかってる?」
「え?わかりません……」
「2日だよ2日。シリウスに乗って帰る途中、寝ちゃうんだもんなぁ。驚いたよ。
そしていっこうに起きずに今の今まで眠りこけていたってわけ。熱があるわけでもないし……ほんと参ったよ」
「すみませんでした……」
なんだか最近、謝ってばかりだな……
「お腹はすいてない?2日間何も食べていないんだからね」
と、その言葉を聞いた瞬間、わたしのお腹がぐ~っと元気良く返事をした。
「……お腹すきました」
穴があったら入りたい。すごい恥ずかしい……
「はいはい。昼ごはんを準備させるね」
と言って、アルさんは部屋を出て行った……クスクスと笑いながら……
「……昼?」
普通そこは朝ごはんじゃないの?今はお昼なの?
わたしはそう思い、外を見ようと思ってベッドから出た。
そして、足にかかる軽いものに気が付く。
改めて自分がどんな格好をしているのか、この目で確認してしまった。
「ど、どうしてドレスなんて着てるのよー!」
そう。わたしが今着ているものは淡い青色のドレス。こんなものを着て寝ていたとは……
半袖シャツに短パンを着ていたはずのわたし。いつの間にか着替えさせられていたようだ。
わたしは当初の目的なんて頭からすっぽりと抜けてしまった。
しばらく部屋の中をうろうろとしていると、壁にかかっている鏡を見つけた。
よし、全身を拝めてやろうじゃないの。
わたしは変な決心を胸に、鏡の前に立った。
ところが、わたしの感心はドレスではなく、自分の目にいった。
「な、な、なんでぇぇぇ!」
自分でもびっくりするぐらいの悲鳴染みた声を出し、鏡に掴む勢いで走り寄った。
なぜなら、鏡に映ったわたしの目の色が薄紫色をしていたから─────