蒼の光 × 紫の翼【完】


「……どうしたんだい?そんなに大声を出して。廊下に丸聞こえだったよ?」



アルさんが戻って来たのだろう、話しかけられたけれどわたしはそれどころではない。



「なんで?どうして?え?」

「あ、無視……無視?」



アルさんの声がだんだん寂しいものになってきているが、かまってられない。



「黒だったはずなのに……」

「それ、ほんと?」



いきなり鏡の中に手が映って、わたしの顎を指で掴んだ。

え?と思う間もなく、わたしは横を向かせられ、顎をくいっと上げられてしまった。

至近距離に端正な顔と緑の瞳があって、思わず息を飲む。



「今の話ほんと?」

「え?ええっと」

「ねえ、どうなの?」



だんだんと緑の瞳とともにアルさんの顔も近づいてくる。

わたしの背中に汗がたらっと流れた。




「……昼から何をやっているんだ、アルバート」




ドアのところからカイルさんの声が聞こえてきた。




「あ、ご、ごめん……つい。怖かったよね?ごめんね?」

「い、いえ……」




アルさんは本当に申し訳なさそうに眉を下げ、わたしから距離をとった。


ふう、びっくりした~……


まだ鼓動が速い。たぶんきっと、わたしの顔は赤くなっているだろう。



「こいつの様子を見に行く、とかなんとか言ったおまえを待っていてもいっこうに帰って来ないため来てみれば……」

「いや、だってさカイル。カノンが一番僕たちが気になっていることをさらっと言っていたんだもん。そりゃ気になるって」

「……瞳、か?」

「……あの、いまいち状況が飲み込めないと言うか……」



わたしがそう言うと、二人の視線がわたしに注がれた。しかも目を見てくるから、わたしは視線を泳がせてしまう。



「……いろいろ話したいことはやまやまなんだけど、まずは食事をしたら?僕たちもあまりここには長居できないんだ。食べ終わったら書斎室に来てよ」



わたしは言いたいことがいろいろあったけど、二人がさっさと部屋からいなくなってしまったため、言葉を呑み込んだ。

二人と入れ替わるようにして、ひとりの女の子が入ってきた。洋服がメイド服っぽいので、お手伝いさんかな?とわたしは思った。

その女の子は一礼して、にこっと笑った。その拍子にひとつにまとめられたブラウンの髪が揺れる。そして、オレンジ色の瞳がわたしを見据えた。



「はじめまして、カノン様。わたしはリリー・ラ・スバンリーと申します。2日前からカノン様付きの侍女をしております。今後とも、よろしくお願いいたします」



リリーちゃんはまた一礼する。

わたしも慌ててお辞儀をした。


……いや、待てよ?侍女?カノン様?



「リリーちゃん、で良いかな?わたし付きの侍女って……」

「はい。どのように呼んでいただいても構いません。
カノン様はお客人です。それにこちらのお部屋を使っていますので、必然的に侍女は付きます」

「こちらのお部屋?ってどんな部屋?」

「こちらのお部屋は、王子様の正妻のお部屋、つまり、いずれは王女様になる方のお部屋です」

「それってつまり……?」

「カノン様はいずれ、カイル様の妻になる可能性が最も高い女性となります」

「……」



わたしは無様にも、しばらく開いた口が塞がらなかった。


だってさ、そんなの初耳なんだよ?わたしはここでは孤児っていう設定だし。

なんか瞳の色がおかしいみたいだし?それはわたしも認めるけどさ……

でもさ、他に部屋はなかったわけ……?



リリーちゃんに名前を呼ばれるまで、わたしはそんな考えを繰り返し頭で反芻していた……



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