蒼の光 × 紫の翼【完】
コナーたちが飛んでいって数分後、ドアがノックされる音が聞こえた。
「入ってもよろしいでしょうか?」
声の主はリリーちゃん。
「どうぞー!」
「失礼します。お迎えに参りました」
ドアを閉めて、リリーちゃんは笑顔で言った。
……かわいいなぁ、リリーちゃんは。癒し系だね。
とわたしが思っていると、何やら洋服を渡された。
どうやら男物の服のようだ。
「これに着替えてください。これを着たら、もうカノン様は男の子です。今日から働いてもらいます」
「うん、わかった。どこで着替えればいい?」
「そこのドアの向こうに手洗い場がありますので、そちらでどうぞ」
わたしは示されたドアを開けて、部屋に入り着替えた。ちょうど手洗い場ということもあり、姿見用の鏡がある。
そこにはまさしく男の子がいて、少しショックを受けた。
……そんなに無いかな、ボリューム……
あってほしいところはほとんど目立たなくなっていた。
着ている服は、まさしく牧場スタイル。茶色い長ブーツで、ジーンズっぽい素材のつなぎ。上は動きやすい材質の半袖。
驚いたことに、城の中はドレスでも寒くないぐらい暖かい。逆に厚着をしてしまうと暑すぎるのかもしれない。
リリーちゃんのところへと戻る。
「まあ、よく似合ってますよ」
「……ありがとう」
「ありがとうございます、です。もうこれからは誰に対しても敬語をお忘れなく」
「あ、ご、ごめん……じゃなくって、すみません」
「ふふふ、まあ、今は二人きりですので、楽にしてもかまいませんが……ところで、名前は決まりましたか?」
「え?あ、えっと……」
さっきの小鳥たちのことがあって、まだ決めていなかった。
「もしかして、まだ決まっていないのですか?」
「うーん……コナー……かな」
「コナー、ですか?」
「うん、そう」
「コナー……いい名前です!これからは決してカノンの名前で反応してはいけませんよ」
「う、努力するよ……」
正直自信がない。コナーと呼ばれてちゃんと反応しないと、変に思われてしまう。
「では、練習しましょう!あなたの名前は?」
「……わた、じゃなくって、僕はコナーです」
「……もう一度しましょうか。あなたの名前は?」
「ぼ、僕はコナーです!」
「その調子ですよ。では、行きましょうか」
と、リリーちゃんの後をひたすら追いかけた。
それにしても城だと言うだけあって広い。たぶんまた人気の少ないルートを選んでいるんだろうけど、部屋、部屋、部屋のオンパレード。生活感を感じられないから、全部空き部屋だろう。
さらに歩いていると、前を歩いていたリリーちゃんがぴたっと止まった。
「わたしが案内できるのはここまでです。これからはルーニーが案内します。わたしは侍女なので、ここから出れば変な目で見られてしまいます。
侍女がここから先に出ることはありませんから」
立ち止まったところは城と平地の境目。確かに、侍女とは縁がないかも。
「ほらよ、これ着ろ」
後ろから声をかけられて、頭にコートを乗せられた。ルーニー君がいつの間にかいたようだ。
「ありがとう。リリーちゃんもありがとう。お仕事頑張ってね!」
「はい!」
「んじゃ、行くか」
ルーニー君がわたしたちを通り越して、スタスタと歩いて行ってしまった。
「あ、待ってよ!」
わたしは急いでコートを羽織って追いかける。
ちらっと後ろを振り返ると、リリーちゃんが小さく手を振ってくれていた。
わたしも手を振りかえして、ルーニー君の後を走って追った。
「名前は決まったか?」
ルーニー君が追い付いたわたしに声をかけてきた。
「うん、コナーだよ!」
「……おまえ、もうちょっと考えろよ」
「……簡単な名前ですみません」
「いや、そういう意味じゃねーよ。言葉遣いのことだ。良いか?俺は王子の側近の弟。おまえはどこの馬の骨ともわからない孤児。
そんなおまえが俺みたいな身分のやつにため口はありえねーだろ」
「す、すみません……」
「どこの誰がこの会話を聞いてるかわかんねーんだからな。気を付けろよ」
「……すみません。以後気を付けますルーニー様」
「それで良い。……っと、忘れるとこだったぜ。これを身につけとけ」
「……眼鏡と帽子?」
ルーニー君から手渡されたものは、レンズに少し色のついた眼鏡と帽子。
帽子は天空の城○○ュタのヒロインよろしく、あの子が被っていみやつたいな少しぶかぶかの帽子。
「それで何がなんでも目の色を隠せ。眼鏡は、まあ、色彩が薄いから光が眩しいとかなんとか言りゃーいいだろ」
「それで帽子は必要あるの……あるんですか?」
あるの、と聞いたところでルーニー君に睨まれたため、慌てて言い直した。
「どうしても眼鏡をかけられなくなった場合はその帽子を代用しろ。目の色と女だっつーとこは何がなんでも守り通せ。じいさんには話はついてるから、ある程度は易しい仕事につけるとは思うがな……」
ルーニー君はその後の言葉を濁した。
「な、何か問題があるんですか?」
「いや、なあ……そのじいさん少しかわっててよ……ギャップが激しいんだ」
「ギャップ?ですか?」
ギャップが激しいおじいさん?ってどんなおじいさん?
「あの、それはどういう……」
「んだー!もお!自分の目で見て確認しろ!いちいち質問ばっかりしやがって!ほら、着いたぞ!せいぜい死なねーように頑張れよな!」
ルーニー君はわたしを置いて、もと来た道を走って戻って行った。
わたしはそんなルーニー君を冷めた目で見送ってから、改めて目の前にある少し大きめの山小屋に目を向けた。