蒼の光 × 紫の翼【完】
これは昔の話。
ある日、ひとりの男は山でひとりの女性が倒れ ているのを見つけた。
女性は黒い髪をしていた。そして、美しい白い肌をもち、男は一目で好意をもった。
男は女性を家へと連れ帰り、献身的に看病をした。
女性を連れ帰ってから数日後、男が家へ帰ると女性はちょうど目を覚ましたところだった。
女性の瞳は紫色をしていた。男は奇妙に思ったが、その瞳があまりにもきれいだったため、女性を手放したくない、と思った。
それから、二人は共に暮らし始めた。
数年の時が過ぎ、女性はさらに美貌さを増した。女性が街へと降りれば、人だかりができてしまう程に。
その話を聞き付けたその街の貴族が、我先にと妻にしたがった。毎日誘いの使者が家へと押しかける始末。
男はそれを心底迷惑に思っていた。女性を独占したかったからだ。
そんなある日、貴族の使者がぱたっと途絶えた。
男は喜んだ。これで自分のものにできる。
女性の心が男に向くのを今まで待っていた男だが、我慢の限界に達し強行手段に出た。
女性は必死に拒んだが、助けは誰も来ない。あと少しで、というところで、不自然な音が山に響き渡った。
木が倒れる音、地響き、何かの動物の鳴き声……
それらがだんだんと近付いてきた。
男は怖くなった。いったい何が起きているというのだ。
それらの音がすぐ近くで止まった。男がひるんでいるすきに、女性は外へと駆け出した。男は慌てて後を追いかけた。
家の外の光景に、男は絶句した。
三頭の大きな狼が、女性の前にひれ伏していたからだ。
女性はそのうちの一頭に跨がり、山へと姿を消した。
男はしばらく動けなかったが、だんだんと怒りが込み上げてきた。
俺の女をどこにやった!
男はその日を境に、嫉妬や怒り、憎しみに捕らわれてしまった。