蒼の光 × 紫の翼【完】
「うう……気持ち悪っ……」
目の前がぐるぐると回っている。
「……当たり前だ。のぼせたんだからな」
上からいきなり低い声が聞こえてきて思わず飛び起きてしまった。
やってしまった後で後悔した。頭が……
う、気持ち悪……というか、服着てる……でも今それどころじゃ……
「ほら、水飲め」
目の前に水の入ったコップを差し出されて、ひしと掴んだ。
「こら!離せ!」
また頭の上から大きな声が聞こえた。コップと一緒に手も掴んだだけじゃん。
「すみません……」
「ったく、俺の気も知らないで……」
わたしは水をいっき飲みした。
「ぷはぁ!」
「本当にそれでも女かよ……」
「これでも一応女です!……って、あ、え、ええっと?……え、ええ?!」
やっと気がついた。わたし今、ケヴィさんと話してるんじゃん!
ケヴィさんの方にぱっと顔を向けた。
「こっち見んな……」
「あ、はい……」
ケヴィさんと目が合うと、頭をかかえてうつむかれてしまった。
わたしは必死にさっきまでのことを思い出す。
……ええっと、お風呂入ってたらケヴィさんが入ってきて、出るに出られなくて、待ってたらのぼせて、それでケヴィ……さん……が……
ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!!
見せてしまったのか、見せてしまったのか!それに見ちゃったよ!
お嫁に行けないよこれじゃ……うう……腹筋割れてたし……じゃなくて!!
わたしが悶絶していると、ケヴィさんが声をかけてきた。
「力を使えない時点でなにか訳ありだとは思っていたが、これほどまでとは……」
「あの、ふっ、ふっ、ふっ、服を着せてくれたんですよね?」
「仕方ないだろ……風邪ひくからな……」
「やっぱり、見ましたよね……」
「見ないほうが難しいだろ……それにおまえも見ただろ……」
「そ、そうでよね……え、え、いや、そのっ、そこまでしっかりとは見てませんよ?腹筋が割れてるなーぐらいしか見てませんよ?」
「そこを見たなら見えただろうが……」
「うっ……その……すみません、でした……」
「……」
「……」
重苦しい沈黙。
その沈黙を破るように、ケヴィさんは大きくため息を吐いた。
「なんで女がここにいるんだよ。男しかいないところに……」
「それは、アルさんに言われて……」
「アル?アルバートのことか?」
「え?呼び捨て?」
「気になるか?」
「それは、気になりますけど……」
「教えてほしいんだったら、おまえの秘密も話せ。男のフリをしている理由と、その瞳の色。おまえはここにいるべきじゃない。城にいるべきだろ。丁重じゃないだろどう見たって……」
「え、もしかして、知ってるんですか?」
瞳の色はどうやっても誤魔化せない。ここは腹をくくって、正体をバラすべきだ。それになぜだか知っているみたいだし。
「紫姫、だろ?おまえは」
「そうみたいです」
「みたい?自分が何者なのかわかっていないのか?」
その言葉とともに、ケヴィさんは顔を上げた。赤い瞳には、なんとも言えない気を感じる。
「紫姫の話は、今日頭から聞いたばかりです」
「今日?だからか、頭がいないと思っていたんだ」
「はい。アルさんの代わりにわたしに話してくれました」
「……まあ、この話はお預けだ。初日から寝坊はしたくないだろ?」
そう言うと、ケヴィさんは立ち上がった。
「え、話してくれないんですか?アルさんとの関係」
「まだ男のフリをしている理由を聞いていない。明日起こしに行くからな」
ケヴィさんはそう言い残して脱衣所を出て行ってしまった。なんだか態度がそっけなく感じるのは気のせいだろうか。
「……なんだか、たいへんなことになってる気がするぅぅぅ……」
わたしはそう言った瞬間、ケヴィさんの肉体美を思い出してしまい、唸ってしまったのだった────