蒼の光 × 紫の翼【完】
「おまえのその力、恐ろしいな……人間に対しては効かないよな?」
「そうですけど……」
わたしたちは子牛を母牛に帰して、放牧用の柵に腕を乗せて二人で並んでいる。
牛達が脱走しないように、つねに見張っておくことにしたからだ。
「それにしても、俺をパシりやがって。覚えとけよ」
「仕方ないってケヴィさんも言ってたじゃないですか……」
わたしのその言葉は無視されてしまった。都合が良いな、まったく……
「それで?キツネは何を言っていたんだ?」
「もう帰ったそうですけど、山に黒い軍服を着た人たちが突然やって来て、動物達を乱獲していったそうです。もちろんキツネさん達も少なからず毛皮目的で殺されてしまいました」
「黒の軍服、か……」
「心当たりはありますか?おかげで獲物がなかなか捕まえられなくて、においをたどって来たら、いつの間にかこんな平地まで降りてきてしまったみたいです」
「黒は確か、隣の国が黒だったような気がする」
「え、隣の国ですか?」
「ああ。リチリアっていう国だ。最近大規模な火災があったと聞いているが……」
「まさか……」
「そのまさかだな。おそらく食料が足りていないんだろう。食料だけでなく、何もかもな」
「だからって……そんな秘密裏にやらなくても、助けを求めてくれればいいのに……」
大震災があった国には、いろいろな国から支援を受ける。お互い助け合うのが普通なのではないのだろうか。
「……紫姫が側室になった国は、そのリチリアだと言われている」
「え……」
「プライドが何かしらあるんだろうな、紫姫のことで。だから助けを求めず、自分たちでなんとかしようとする。いい迷惑だ」
紫姫がいたかもしれない国?その国がこんなに近くにあったとは……
「……乱獲の件は、王族もまだ知らないだろう。ちっ……報告をしないといけないな……」
「あ、もしかしてアルさんに会えますか?それとカイルさんにも!」
「……あいつには会いたくないがな」
「……もしかして、カイルさんとも関係があるんですか?」
「だったらどうした?」
「何者なんですか、ケヴィさんって!」
「おまえが先に話せよ。そういう約束だろう?」
「……約束した覚えはありません」
「さっきの貸しだ。今約束した」
「……やっぱりケヴィさんはズルいです」
「なんとでも言ってろ」
わたしは渋々自分の経緯を話した。
ケヴィさんは口を挟まず聞いてくれた。