蒼の光 × 紫の翼【完】
「で、今に至ると」
俺が話し終わったとき、あいつは俺の右耳の近くでパンッと手を叩いた。
「……なんだよ」
「あれ、聞こえるんじゃないですか」
「そんなにデカい音鳴らしたら普通に左耳でも聞こえる」
「あ、そっか……今度は小さくしないと……」
「……全部聞こえてるんだが」
「え!右側で話してるのに」
「俺が聞きとれなくなるのは、何かに気を取られているときと、気配を察知できなかったとき、ただたんに音を聞き取れなかったときだ」
「そうなんですか。都合が悪いときだけ聞こえないんですね」
「……悪かったな」
……本当こいつといると飽きない。おもしろすぎる。アホだしな。いじめがいがある。
しかし、さっきのキツネの場面はたいしたもんだ。
いつもはあんなヘラヘラとしているのに、いざというときはしっかりしているんだな。
見直した、と思ったことは黙っておこう。
「……ところで、ひとつ聞きたかったことがあるんですけど」
「なんだ」
「なんで紫姫のことを知っているんですか?」
「それは酔った勢いでカイルから聞いたからな」
「え!未成年じゃないですか」
「違う!成人式の祝いの後飲み明かしたんだ、三人で。そのときは限界を知らなかったからな。アルバートは酔いつぶれて寝ていたから紫姫の話を聞いたのは俺だけだ」
「へえー。てっきり女の店で聞いたのかと思いましたよ」
「そんなところで王族の大事な話をするか!身分を隠しているのに。少し考えればわかるだろう!……やっぱりアホだな」
「……アホアホ言わないでください!これでも成績は優秀なんですからね!」
「ふーん、これでも、ってことは自覚しているんだな」
「はっ……」
しまった、という顔をあいつはした。やっぱり顔に出やすいタイプだな。アホの象徴だ。
「だからアホなんだよっ」
「痛い!……もう、でこぴんばかりしないでください!ヒリヒリするじゃないですか!」
「悪かったな指長くて」
「~~~!!」
睨んでいるがそんなの効かねえよ、女の睨み顔なんて男のに比べればなんてことはない。
……まあ、今度からは加減してやるか。
「……あ、そろそろ夕飯の時間に近いな。牛を牛舎に戻すぞ」
「ほんとですか?そうやって逃げているわけじゃないですよね?」
「なにがだ?」
あいつに後ろからピーピー言われた。嘘つくわけないだろうに。
「いつも何かしら逃げられてしまって、やり返せないんですよ!」
「……それ本人に言うことなのか?」
「はっ……」
またさっきの顔してやがる。やっぱりおもしれぇ。
「早くしろよ!」
「はいはい、今行きますよ!」
あいつは投げやりにそう言った。
「おまえの声は鶴の一声なんだからな、おまえを頼りにしてるぞ。戻れの一言で牛が列をなすだろうし」
「あ、そ、そうですか?」
嬉しそうな声だしやがって。嘘はつけないタイプだな。
俺はあいつが隣に来るまで、歩きながら忍び笑いをしていた──────