蒼の光 × 紫の翼【完】



「へぇー、まだ早いのに活気がありますね」

「首都だからな」

「あ、そうでした」



わたしたちが降りてきた街には人が溢れんばかりに賑わっていた。


八百屋や魚屋、宝石店、雑貨屋、服屋。

もちろん食堂もたくさんあるし、屋台もある。


東京みたいな感じ。けれど、すれ違う人々の瞳の色はさまざま。髪の色もカラフル。


……秋葉原がもっと栄えたら、こんな感じになるのかな。


と、しょうもないことを考えていると、腕をガシッと掴まれた。

見上げると、ケヴィさんだった。




「おまえ、迷子になるつもりか」

「へ?」

「そっちには用はない。こっちだ」




いつの間にか人に流されて、ケヴィさんと少し離れてしまっていたらしい。




「絶対に俺のそばから離れるなよ。一応女だし、それに隠しているとはいえ、その瞳を晒すことになると厄介だ」

「……一応とはなんですか一応とは!」

「それの前後の言葉もちゃんと聞けよ!俺のそばを離れるな、いいな?」

「……はい」




ケヴィさんはわたしの腕を掴んだまま歩き出した。



「ちょ、ちょっとケヴィさん!速いし痛いです!」

「あ、悪い」




ケヴィさんは手の力を抜いてくれたけど、なんだかもどかしく感じた。


……なんだろう、この気持ち。




「ケヴィさん!」

「なんだ!いちいち話しかけるな!」

「手、繋いでもいいですか?」

「……好きにしろ」




ケヴィさんは前を向きながら了承してくれた。

腕をずっと掴まれていたらなんだか奴隷みたいで嫌だなぁ、とわたしは思っていたのだ。

キツネのときと同じように手を繋いで歩く。

すると、わたしの中に何か温かいものが流れて来た。

懐かしさ、なのか、恥ずかしさ、なのかよくわからない。

けれど、なにか温かいもの。安らぎを感じるもの。



確かに、裸を見られたことは恥ずかしかったけど、でもそれはわたしたちにとってはもう時効で、意味のないものになっていた。

それほど、わたしたちにはすでに絆がある……たぶん。ケヴィさんはどう感じているかはわからないが。


まだ会って数日。しかし、昼夜を共にしてなにかしらは繋がったとわたしは思っている。


例えば、この手のような……




「着いたぞ。しばらく俺はこの雑貨屋にいるから、適当に見て来てもいい。ただし、俺が見える範囲内だ」

「いえ、ケヴィさんのそばを離れませんよ。さっきケヴィさんが言った言葉じゃないですか」

「……それもそうか。このあと行きたいところはあるか?」

「ちょっと洋服屋さんに行きたいです。あ、でもこの雑貨屋さんにあるかもしれません。
なんでも売ってますよね?ここ」

「……まあ、ある程度は」

「じゃあ、ケヴィさんの後を歩きながら探してみます」



わたしはケヴィさんの後を歩きながらキョロキョロとあるものを探した。



「ええっと……あっ!あった!……うん、使えそう。よかった、ちゃんとしたのがあって」

「それは……」



わたしが手にしたものを見たケヴィさんは、わたしを冷たい目で見てきた。



「はい、オムツです」

「なんでそんなもの……」

「変な意味はありませんからね!……この世界にちゃんとした、せ、生理……用品があるかわからなかったので、オムツの吸水性を代用しようかと……」

「……なるほどな。ちゃんとあるぞ、この世界にもその用品」

「え、あるんですか?」

「おまえがいた世界と同じかはわからないが、あそこの扉の奥にある。店側が配慮してくれているんだろう」

「良かった!ありがとうございます。行ってきてもいいですか?」

「……別にかまわないが。それにしても、なんでそのことにそんなにこだわるんだ?」

「……備えあれば憂いなし!です」

「……なるほど」



ケヴィさんに心配かけたくなかったから、小さな部屋にあった生理用品を備え付けてあった黒い袋に入れて、すぐに戻った。

生理用品は多少衰えてはいるけれど、ほとんどもとの世界と変わりはなかった。



「もう買うものはないか?」

「ありません……ってなんですかその大荷物!カゴにたくさん入ってるじゃないですか!シャンプーに石鹸にタオルに洗剤、それとスポンジ、歯ブラシと……」

「全部言う必要はない。男しかいないから減りが早いんだ。それに人数もそれなりにいるしな」

「男だけって……女もちゃんといますけど」

「ああ、ガキっぽい女みたいな男がいるな」

「……もういいですよ」




わたしはそっぽを向いた。



「悪かったよ。頼むから荷物を少し持ってくれ」

「……」

「おまえの私物もあるんだが?」

「……」



わたしは無言で手を差し出した。



「ありがとよ」



わたしの手には軽いものだけが入った袋を渡された。


……こういうときは優しかったりするんだよねー。


そこが憎めないっていうかなんというか。




「次、酒屋に行くからな。軍資金はたんまりあるから、途中欲しいものがあれば言えよ」

「軍資金……」

「けっこうウチは儲かっている。小遣いみたいな感じで余分に頭がくれるんだ」



わたしたちは雑貨屋さんを後にして、再び歩き始めた。今度は二人並んで歩く。さっきよりは人の流れに余裕ができていたからだ。



それにしても、いろいろな店があるなー……あっ!宝石店だ……ちょっと見てみたいかも。今まで宝石との接点はなかったけど、もともときれいで光るものが好きだ。


そんなことが顔に書いてあったのかもしれない。



「宝石店、寄ってもいいぞ?」


とケヴィさんが言ってくれた。ここはお言葉に甘えるしかないだろう。



「はい、すぐに戻って来るので出入口で待っててください」

「ほら、軍資金だ。気に入ったものがあれば買ってもいいぞ」

「……たぶん買わないと思いますけど、受け取っておきます」




わたしはケヴィさんを置いて、宝石店の中を物色し始めた。

赤、青、緑、黄色、黒、紫、透明……


鮮やかな宝石たちが明かりに照らされて輝いている。



すると、ひときわ澄んだ雫形の透明の小さな石があしらわれたペンダントを見つけた。

それに見入っていると、女性の若い店員に話しかけられた。



「そちらが気になりますか?」

「あ、はい。少し……」

「まあ、お目が高い!そちらは今大人気の商品の、オーロラ石と言いまして、触った人の雰囲気に色を変えるという不思議な石です」

「へえー」

「実は私も持っているんですよ」



と店員さんは言って、胸元の紐を手繰り寄せて石を見せてくれた。確かに、売られているのは透明だけど、その人のはピンク色をしている。

確かに、ピンクな雰囲気をかもしだしているように思うけど、もしかして……



「それって、彼氏からのプレゼント的な感じですか?」

「はい!プレゼント的な感じです!もうわたし嬉しくって……もう……キャー!」



……さらにピンクに染まった。



「お値段もお手頃なんです。大量にとれているとかで……人気もありますし、今日品切れだったのを入荷したばかりなんです!」


わたしは決めた。


「オーロラ石、6個ください!」

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