蒼の光 × 紫の翼【完】
見上げるとアルさんがにっこりと笑った。
でも、髪の色が黒色だ。
「元気ですけど……なんで髪染めてるんですか?」
「ん?ああ、これ?」
アルさんは自分の前髪を摘まんだ。
「今はね、変装中なんだ」
「アルさんも買い物ですか?」
「ん?んー、あまり教えられないんだけど、違うとだけは言っておこうかな」
「はあ」
なんだろう。知りたいけど教えられないって言うし。それに……
「あの、そろそろ離してくれませんか?」
「えー、ヤダ」
「ええ!?アルさんってそんなキャラでしたっけ!?」
「僕だって甘えたい時もあるんだよー」
と言って、アルさんはさらに腕に力を入れた。
「それに、やきもち焼いちゃったよー。ケヴィと仲良く手を繋いで歩いてるんだもんな」
「え、いや、そ、それは……」
「はははっ!カノンどもりすぎでしょ」
「え、あ、いや、その……」
「おまえがやきもちとは珍しいな」
いきなり背後から声が聞こえてきた。
「そっちも珍しいんじゃない?君自ら手を差し出すなんて、カイルが聞いたらなんて思うかな。それに、そんな物騒なものは降ろしてくれない?」
「おまえこそ降ろせよ、アルバート」
……いったい何が起こってるんだろう。
「……はいはい、負けました。降参降参。よっぽどカノンがお気に入りなんだね」
わたしはアルさんから解放された。
「……へぇー、そいつカノンっていう名前なのか」
「え、あ、あれ、そう言えば秘密なんだっけ?」
急にアルさんが慌て出した。
「いえ、もう知られています。でもケヴィさんしか知りませんが」
「え、どんな拷問したんだいケヴィ。カノンは嘘が上手なのに。僕は最初まんまと騙されていたんだけど」
「は?こいつよく顔に出るタイプだぞ」
「え、嘘?!」
「いじめがいがあって毎日楽しくやってるさ」
「……わたしは楽しくありません」
「嘘つけ。笑っているだろういつも。しかもヘラヘラとアホっぽく」
「なっ!ひどいですケヴィさん!」
「……はいはい、仲がよろしいようで」
「「よくない!」「よくないです!」」
「うおっと……はいはい、わかりましたよー」
そんなこんなで茶番は終わり、ケヴィさんが口火を切った。
「早く許可書をくれ。重要な報せがある」
「許可書?僕はそんなこと聞いてないけど」
「はあ?嘘だろ?」
「嘘じゃないって。ケヴィの頼みならその日の内に実行してるよ」
「……確かに。てことはアレだな……」
「止められちゃったみたいだね、何者かによって」
「それはそのおまえの格好に影響を与えるか?」
「どうも言えないけど、それは大問題だね」
……いまいち話の内容がわからない。
「あのー、なんのお話で?」
「なんでもないよ。続きは城でってことで」
「ああ。早くしろよ、緊急だからな」
「はいはいおまかせあれ」
……アルさん行っちゃったな。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか?……ところで、物騒なものってなんのことですか?」
「あ?ああこれのことだ」
ケヴィさんが見せてくれたのは、キラリと鋭利に光る短剣。
「物騒すぎますよこれ!」
「最初アルバートとは気づかなくてな。声を聞いてから気づいたんだ」
「……やっぱり軍人なんですね」
「まあな。俺は元だが……それより」
「はい?」
「迷子になるなと言ったはずだ!」
……そのあと、みっちりとしごかれて、地下へと戻ったのはおやつ時ぐらいになってしまった。
まあ、そのかわりお昼は屋台で美味しいものを食べられたけど。
「……おまえ、いくらなんでも食いすぎだろ」
「いいじゃないですか!久しぶりの甘いものなんですからぁ」
「顔がデレデレしているぞ」
「ううー、ついついニヤけちゃうんです」
わたしは口をピシッと引っ張ったけど、でもやっぱりダメだ。
わたしはひとくち、目の前にあるクレープっぽいスイーツを頬張った。
「ん~、おいしい!生クリームが果物の酸味にマッチしているけど、果物の風味を殺さずにちゃんと寄り添ってる!生地ももっちりしていてもう、絶妙!」
「……」
「ケヴィさんは何か食べないんですか?」
「……さっき、昼飯食ったからな。それにあまり甘党ではない」
「へえー、そーなんですかー」
「聞いたなら棒呼びで返すな!それにおまえだってさっき昼飯たらふく食っていただろう!」
「甘いものは別腹です!」
「……どや顔で言われてもな」
「うーん、おいしい!それに安いし!」
「聞いてないし……」
「あっ、あの店のクッキー美味しそうですね!」
「おまえ、まだ食べる気か?」
「いえ、みなさんへのお土産です。きっと喜びますよ」
「……勝手にしろ。俺はその荷物持てないからな」
「ああ、そうでしたね。その手でよく短剣なんてかまえられましたね」
「訓練していたからな」
「えっ!大荷物を抱えながら短剣をかまえる訓練なんてあるんですか!」
「…………(やっぱりこいつアホだ)」
「おじさーん!このクッキー二箱くださーい!」
「あいよー!」
「……やっぱり仲いいじゃん」
こっそりと二人の跡をつけていた誰かがニヤリとして呟いた────