蒼の光 × 紫の翼【完】
ガチャ……
わたしはみんながいた部屋のドアを遠慮がちに開けて、中の様子を伺った。
なんだかさっきはとてもイライラしてしまい、アルさんに八つ当たりしてしまった。
そして、部屋を飛び出した後も後悔の連続。
ドアを閉め走っているとき、見事にすっ転び眼鏡も吹っ飛んでかなり焦った。
眼鏡が無事見つかりトイレを目指したものの、場所がわからず路頭に迷う始末。
リリーちゃんがわたしを見つけてくれたおかげで事なきを得たけど、ケヴィさんの差しがねだと聞いてわたしは憤慨。
トイレの場所を案内してもらったけど、その場所は丁度眼鏡を探していたところだった。
……ホント最悪。
気づかなかっただけで、ちゃんとたどり着いていたというオチ。
そんなこんなでわたしはリリーちゃんと共に部屋に戻って来たのだった。
けれど……
「あれ、みんないないや。どこ行ったんだろう」
男4人が忽然と姿を消していた。
「じきに戻って来ますよ。座って待ちましょう」
「うん、そうだね」
少しして、ルーニー君以外は汗だくな状態で戻って来た。
「ったく…おまえら…場所をわきまえろ。今は王が不在とは言え…ふざけすぎだ…」
ケヴィさんが息をきらしながらドアを開けて入って来た。
その後ろにカイルさん、アルさん、そしてなぜか目を輝かせているルーニー君と続けて部屋に戻って来た。
カイルさんもアルさんもお疲れのご様子。
……いったい、何があったんだろう。
わたしはみんなの会話に耳をすませた。
「ホント…だよ。はぁ…。無駄に力を使わせちゃって…2人とも手…加減しないんだもん。でもまあ、久々にいい汗かけた…よ」
「誰だよ、最初に喧嘩を吹っ掛けて来たやつは……あ?俺?」
カイルさんの言葉にわたしとリリーちゃん以外の人が指差した。
「でしょ?違う?約束だから公言しないけど」
「まさかケヴィと意見が一致するとは思っていなかったがな。まあ、この場合は一致したくはなかった」
「……(まさに男の戦い…ちょーわくわくする!)」
……なんだかよくわからないけど、変なことをしていたわけじゃないのかな?
「……あ、忘れるところだったな。酒持って来てやったぞ。今回は奮発してやったから感謝しろよ」
「え、どれどれ?赤でしょ?」
「当たり前だ」
「リリー、肴を頼む」
「かしこまりました、カイル様」
……え、ちょ、待ってよ、なんだかわたし、のけ者にされてない?
わたしが密かに居心地悪くなっていると、ルーニー君が耳打ちしてきた。
「もうここから出た方がいいぞ。おまえ多分喰われる」
「え、なにそれ。どういうこと?」
喰われる?
「一応おまえは女だからな、教えといてやるよ。
兄貴たちのことは知ってるよな?今はおさまっているが、いつ襲われてもおかしくねぇぞ。そんじゃあな、うまく逃げるこったな」
それどういう意味?と聞こうとしたけど、ルーニー君は踵を返してさっさと部屋から出て行ってしまった。
「……なんなのいったい」
わたしがルーニー君が出て行ったドアを見つめて呆然としていると、どうやら宴が始まってしまったようだった。
「おまえら強くなったな。昔は俺がいちばん強かったのによ」
「それは力だけの話でしょ?剣術は僕がいちばん強かった」
「性格が悪かったのもいちばんだったがな」
「なんでそんなこと言うのさー」
「おい!くっつくんじゃねぇよ。いちばん酔いが回り易いのもアルバートだろうが」
「飲み始めて言葉が悪くなるのがいちばん早いくせに何言ってんの?ねぇカーイール?」
「うぜぇ……」
……あのー、わたしはどうすればいいんでしょうか。
アルさんはもう悪酔いしているみたい。
カイルさんとケヴィさんは少し顔がほんのり赤みがかってはいるけど、アルさんよりはお酒に強いみたい。
それにしても……
どこかの水商売かここは?!
イケメン3人がソファーに座ってワイン飲んでるよ!
ホストにしか見えないんだけど……
グラスを片手に談笑。長い足を優雅に組んで戯れている。
……フェロモン半端ない。普段そんなこと思わないわたしでさえ影響されている。
ダメだ、おかしくなりそう。
「カノン、こっちに来い」
ケヴィさんに笑顔で手招きされた。
……そんな顔しないでくださいよ。断れないじゃないですか。
わたしは少し離れてケヴィさんの隣に座った。
「あ、ずりぃ。抜け駆けとはいい度胸しているな」
「俺は手が早いんでね」
「じゃあやってみろ」
「……いいのか?」
「おまえにできるならな」
2人の会話の意味がよくわからないが、どうやらいい意味ではないかもしれない、とわたしは思った。
アルさんはすでにカイルさんの隣で爆睡中。ときどき優美な笑顔をしてむにゃむにゃ言っていることから、恐らくいい夢でも見ているのだろう。
「正直に答えろよカノン」
「え?あ、はい」
アルさんに目を向けていたから、ケヴィさんの言葉に瞬時に反応できなかった。
ケヴィさんと向き合うと、熱い瞳と重なり合う。
……なんか、変な気分になってきた。
そんな目で見つめられると、身体の芯が疼くというか、熱くなってくるというか。
しばらく目をそらせずにいると、カイルさんが痺れを切らしてわたしに言って来た。
「おまえ、俺とケヴィ、どっちがいい?」
「……はあ?」
「やるなら、どちらがいいかって聞いてんの」
「え?」
ケヴィさんにも問い詰められてわたしは顔をしかめた。
リリーちゃんに助けを求めようとそちらを見ると……いなかった。
……ええー!逃げたでしょ絶対!
わたしが間抜け面をしていると、ケヴィさんが謝ってきた。
「……悪い。いきなり過ぎたな。
おまえは他の女とは違うんだ。慎重にするべきだった」
「は、はあ……」
「だが、覚えておけよ」
今度はカイルさんに見つめられてしまった。また熱い瞳から目をそらせられない。
「俺たちはいつでもおまえを狙っているからな。覚悟しろ」
……狙ってる?
「あの、どういう意味なんでしょうか……」
「ええー!?」
すっとんきょうな声が聞こえてきたからそちらを見ると、いつの間にかリリーちゃんが立っていた。
そして小走りで近づいて来てわたしと目のたかさを合わせた。
「ほん、とーにわからないんですか?!」
「う、うん」
リリーちゃんはわたしの返事にガクッと項垂れた。
「カノン様って……」
「「鈍感だな」」
「え?え?」
わたしはため息を同時に吐いた3人をそれぞれ見たけど、やっぱり意味がわからない。
「あの……?」
「道のりは長いようだな、ケヴィ」
「そうだな、カイル。これほど鈍感とは思わなかった。だが、渡さないからな」
「それはこちらのセリフだ。おまえなんかに渡さねぇ」
「……(キャー!三角関係よ!)」
火花を散らしているカイルさんとケヴィさん、頬を両手で抑えて目をキラキラさせているリリーちゃん。
……さっぱりわからない。
窓の外を見て、わーもう夜だー、と呑気に夜空に輝く星に目を凝らしていたわたしには、今起こった事の重大さがわかっていなかった─────