蒼の光 × 紫の翼【完】
「ひゃー寒いっ!」
「そうか?」
「ケヴィさんは酔ってるから感じないんです!」
「確かに、逆に身体が熱いからちょうどいい」
「……なんでカイルさんまでついてくるんですか!」
わたしとケヴィさんとカイルさんは、夜空の下、雪が積もっている野原を歩いている。
宴が終わって……と言っても、アルさんは終始眠っていたが、城に泊まるわけにはいかず、すっかり暗くなってしまったが帰ることにした。
もちろん、わたしとケヴィさんは地下へと帰るため歩いているのだが、なぜかカイルさんもついてきた。
「あ?酔いざましだ酔いざまし。リリーにはアルバートを見ているように言ったからな。お見送りをしてやっているんだ」
「……別にいらないですよ。それにカイルさんは王子じゃないですか!そんな人がぶらぶらとするために城を出ていいんですか!」
「平気だ。俺は強いからな」
「なんですかそれ……」
……なんだかもう疲れてきた。酔っぱらいを相手にするときは強く出ないと聞いてくれない。
これはお母さんの受け売りだ。上司と飲みに行った帰りにはいつも言っていた。
お母さん……今どうしているのかな……
なんだかしんみりとしてしまったから、上を見上げた。
「うわあ……」
わたしは感嘆の声を上げた。
なぜなら、夜空には無数の星がちりばめられていて、キラキラと瞬いていたから。
城の中から見た夜空からはこんなに星は見られなかった。
プラネタリウムさながら、いや、それ以上の星で明るく見える青い夜空。
「きれい……」
「ん?いつもと変わらないだろ?」
わたしがついもらした言葉にカイルさんが反応した。
「いえいえ、こんな夜空初めて見ましたよ。夜はいつも地下にいたので、夜空は見られていませんでした」
わたしはきらきらしたものが好きだ。オーロラ石同様、星にも魅力を感じる。
「……そうだな。悪いな、好きに行動させてやれなくて」
ケヴィさんが謝ってきたけど、わたしは首を横に振った。
「いいえ、わたしが望んでしている仕事です。最初は体力的にキツかったですけど、今ではやりがいを感じています」
「……だよな。俺も最初はこんな仕事……とかって思いながらやっていた。だが、次第に引き込まれていった」
ケヴィさんも夜空を見上げながら肯定してくれた。
「……では、もう剣を握ることはないんだな」
ケヴィさんの言葉にカイルさんが顔をしかめた。
「……ああ。そうなるな。だが、握らなければならなくなったときは、そのときだ」
ケヴィさんはそう言って、わたしを横目で見た。
わたしが首をかしげると、ケヴィさんはふっ……と笑った。
「カノンには関係ない。気にするな。リチリアともし戦争にでもなれば、とかいう話だ」
「え、戦争……」
「まあな。今後のリチリアの行動が激化すれば、こちらも手を打たなければならなくなる。幸い、1週間後にリチリアで催されるパーティーがある。それは毎年やっている、いわば情報交換が主のパーティーだ。
地方の貴族や王族が集まるが、伴侶探しをするやつらがいるからめんどくせぇ……」
「おいおい、もう22歳なんだぞ?そろそろ腰を落ち着かせないとおかしい歳だ」
ケヴィさんはにやにやとしながらカイルさんに言った。
「ケヴィ……わかってて言ってんだろ。おまえも相当性格悪いな、昔と変わらず」
「なんのことだ?さっぱり言ってる意味がわからない」
「てめぇ……」
あーあ、また始まった。カイルさんの口調がもう我慢の限界だ、とでも言うかのように悪化している。
でも、なんだかおかしくなってしまって、わたしはプッと場に似合わず吹いてしまった。
「「は?」」
だから、その顔やめてください。いかにも、眉を寄せて不機嫌な顔をするのは……
「あは、あははははははははっ……」
わたしは邪魔な眼鏡を外して、笑いだしてしまった。
「は?何笑っているんだよ」
「意味わかんねぇ……」
二人はまたしてもばつの悪そうな顔をしてお互い背けた。
「だって…ふっ…二人が、似てるんですぅぅぅからぁははははは……」
「「似てねぇ!」」
「あはははは……あは、はあ、はあ、はあ……ふう」
わたしはだんだんとお腹が痛くなってきていたので、自力で笑いの衝動を抑えた。
「でも、よく見たら顔も似ているような……」
「……そう言えば、アルバートにも言われたな、そんなこと」
「え、いつだ?」
「あれは……確か……力を初めてコントロールできるようになったときか……?」
「そうだったか?」
「ああ。頭のもとで練習をしていたとき、ほぼ同時に成功して、二人でアルバートと頭を振り向いたときだ」
「……そんなこともあったな。思い出した。アルは休憩していたから、頭の横にいたな。で、うまくいったのに振り向いたら笑われて、なんだ?と思った記憶がある」
「で、アルバートに聞いたら、俺らの表情が似ていた、瓜二つだった、とかえされた」
「へぇー、そんなことがあったんですか。でも本当に似ていますよ?ふとしたときの表情とか、仕草とか」
「仕草?俺らなんかしてるか?」
「さあな」
それがですね、しているんですよ。
「恥ずかしいときとか、困ったときとか、髪をがしがしと掻くんです」
「「あ……」」
ケヴィさんもカイルさんも無意識にしているんだろうな、とは思っていたけど、あまりにもタイミングが似ているから、逆に違和感がなくて今まであまり気にしていなかった。
けれど、似ているという話になって思い出したのだ。