蒼の光 × 紫の翼【完】
「ほら!」
わたしが二人に言ってあげると、同時にお互いの頭を見た。
「「…………」」
恥ずかしかったのだろう、二人とも頭を掻き始めたので、わたしは指差したのだ。
二人はやはり恥ずかしいのだろう、さらに掻き始めた。
「くそっ……気がつかなかった」
「ああ、そうだな」
「だから言ったじゃないですか」
二人はもう何も見たくないのだろう、夜空を再び仰ぎ見た。
わたしもそれに習う。
「これは……天の川ですか?」
わたしは天の川らしき星の群生を指を左右に振って示した。
「天の川?」
「はい。わたしがもといた世界では天の川って言うんです」
「俺らはあれを龍の星屑と呼んでいる」
「なんか、かっこいい名前ですね!」
カイルさんが答えてくれたけど、天の川にも名前の由来があるように、その名前にも由来があると思った。
「わたしの世界では、女性の織姫、男性の彦星が年に一度だけ会いに来る川って言う意味です。二人は星になって、その時を待つんです。その時っていうのは、7月7日なんですけど」
「へえー。そりゃロマンチックだな。龍は神聖な生き物だが、伝説上にしか出て来ない」
「その龍の吐息が漂いやがて星になり、こんな風になったと言われている」
「だから、龍の星屑……」
もしそうだったらなんて幻想的なんだろう。
「あ、わたしの世界ではこの龍の星屑にお願い事をするんです。ひとつだけですけど」
「そんな文化があるのか。おもしろいな」
「はい。子供がメインなので、大人になったらほとんどしませんが」
「では、それに習ってみるか?」
「賛成だ」
わたしたちはお互いに目配せをしたあと、再び空を見上げ、龍の星屑を眺めた。
どれぐらい経っただろうか、願い事をしたあともついつい見とれてしまい、首が痛くなってしまった。
「……あれ?」
辺りを見回しても誰も見当たらない。視線を少し下げてみると、二人がいた。
けど……
「わあー!寝ないでくださいよこんなところで!風邪ひきますから!聞いてますかー!」
なんと、二人は雪の上に寝転がっていたのだ。
「あ?ああ……つい寝てしまった」
「しかし、これはこれでいいな。おまえも寝転がれ」
「はあ?何言ってるんですかカイルすぁん!」
わたしはいきなりカイルさんに腕を引っ張られてしまい、強い衝動を覚悟して目を固く瞑った。
しかし、感じてきたのは何本もの腕と、お酒の香り。そして、たくましい熱い身体。
「カイル!危ないだろうが」
「問題ない。こいつは軽いし受け止められる自信があった」
「そういう問題じゃないだろ!」
「だ、大丈夫ですからケヴィさん。現にこうしてケヴィさんも支えてくれたことですし。でも、ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいので放してください……」
「悪い……」
二人はそっとわたしから離れてくれた。
ケヴィさんとカイルさんから解放されたわたしは、二人の間に仰向けに寝転がった。
「わあ……本当にすごいです」
「だろ?」
「……」
けらけらと無邪気に笑うカイルさんを尻目に、ケヴィさんも再び寝転がった。
「こんなことをしたのはいつ振りだか……」
「覚えていないな」
「わたしは初めてですよ」
わたしはそう言って、白い息を吐いてきらきと消えていくのを見送ったあと、立ち上がった。
「さて、帰りましょう。みなさん待ってますよ」
「そうだな」
よっ、と言ってカイルさんが立ち上がる。
「ケヴィ、本当に風邪をひくぞ」
「……」
「ケヴィ?」
「んあ?ああ、悪い、聞こえなかった」
「しっかりしろよ。どれだけ夢中になって星を見ているんだ。ほら」
「ああ、そうだな、すまない」
差し出されたカイルさんの手をとって、ケヴィさんも立ち上がった。
「気をつけないと、置いてけぼりにされちゃいますよ?いつか」
「気をつけるさ」
「では、俺に城に戻る。気をつけて帰れ」
「またな」
「さようなら」
わたしたちは雪に人形の凸凹を残してそれぞれ家路を急いだ。
「ああー!」
「……なんだよいきなり。うるさい」
「いえ、すみません……。わたしまだリチリアのこと全然聞いてないなと思いまして……」
「それなら明日話してやるよ。おまえがいなくなったときに聞いた。明日は羊当番だし」
「はい、そうですね」
わたしたちは並んで歩き続けだした。
その明日に、仰天ニュースが飛び込んで来るとは知らずに────
「へっくゅん!」
「またか?これで何度目だ?」
「7がいめでず……」
「酷い鼻声だぞ。おまえが風邪ひいてどうするんだ」
「なんでゲヴィざんは大丈夫なんでずが?」
「酒飲んだやつは意外と平気なんだ」
「うっ……」
「バカは風邪ひかないとか言うのにな」
「バガで悪がっだでずね!」
「眼鏡をかけずに瞳の色をさらしているおまえはバカだ」
「ぞ、ぞれを早ぐ言っでぐだざいよ!……よがった。割れでない」
「……おまえ、どっかのばあさんかよ。声がひでぇ」
「あ、あじだはよぐなっでると思いまず!」
「ああ、期待している」
「へっぐじゅ!」
「…………」