蒼の光 × 紫の翼【完】
むむむ……むむむむむ……どっちにしようかな?
鯖(さば)にしようか、鰯(いわし)にしようか……



わたしは缶詰コーナーの前で悩んでいた。

本当は鮮魚にしようか、とも思ったのだけれど、グリルの後始末が面倒だし、匂いも気になるし、ということで缶詰にすることにした。



よし、鯖にしようかな……



値段が同じだったため悩んでいたのだが、鯖の方が食べたくなったのでなんとなく鯖にした。

かごにはサラダの小さめな盛り合わせがすでに入っている。わたしはそこに缶詰を放り込んだ。

ご飯は家を出る前に炊飯器のスイッチを押してある。


そして、わたしの足はレジの方向に向かうと思いきや、お菓子コーナーへ……

わたしはチョコのところを素通りして、クッキーのところに立つ。

チョコはトッポのせいでトラウマ気味になり、その二の舞は避けたいと思い、チョコは無視した。



クッキーも結構種類があるな……



わたしは種類の多さに目移りしてしまい、悶々と考えていた。値段、量、味……と、手に取っては戻し、手に取っては戻し、と繰り返していた。

突然、横から声をかけられた。



「悩める乙女ってやつ?」



声の主に振り向くと、そこには制服姿の野島君がいた。どうやらさっきまで補習をしていたようだ。

わたしたちが教室から出ても、彼はまだ残っていた。意外と勉強熱心だ。



「あ、野島君。キットカットありがとう」

「いやいや、俺も教えてもらって助かったよ」

「野島君の家ってこのスーパーに近いの?今まで会わなかったね」

「近いというか、俺の通学路の中にこのスーパーがあるって感じ」

「そうなんだ」



野島君はわたしの手元を見て、口の端をくいっと上げた。



「もうチョコはいいのか?」

「だって、夏だから溶けちゃうんだもん」

「ベイクって知ってるか?」

「ベイク?なにそれ?」

「溶けないチョコなんだ……あ、これだよこれ」



野島君はピンク色のパッケージをしたチョコを手にひょいっと取ってわたしに見せた。



「……ほんとだ、溶けないんだね」

「これなら安心だぜ。俺もこれ食べたことあるけど、うまかった」

「でも安くないなぁ……それにわたしは森永よりもロッテのお菓子が好きなんだけど」

「メーカーでそんな変わるもんなのか?まあ、ものは試しだ。買ってやるよ。夏音の目はすでにこれを離さない、って感じだからな」

「え、う、嘘。そんな顔に出てた?」

「ああ。百面相してた」



わたしは恥ずかしくなった。それほど顔に出ていたのか……

わたしがそう考えているうちに、野島君はさらに2つ同じのを手に取った。



「あれ、野島君も買うの?」

「も、ってことは、夏音は買う気満々なんだな」

「え、あ、いや、その……」

「そんなしどろもどろになるなよ。おもしれぇなまったく……。違う、これ全部夏音に買ってやるやつ」

「え?そんなにいらないよ!自分で買うから」



わたしはその3つのチョコに手を伸ばしたけれど、呆気なくかわされた。

やはり、野島君との身長差がいたい。



「ほらほら、レジ行くぞ」



チョコを捕まえるために伸ばした腕は、簡単に野島君に掴まれレジの列へと引っ張られた。

野島君はわたしとは別の列に並んだ。どうやらとことんわたしに買う気らしい。


わたしと野島君は店の外で落ち合った。



「ほらよ、誕プレ」



野島君はチョコの入った袋をわたしに差し出した。



「え、わたしの誕生日知ってたの?」

「伊達にクラスメートやってねーよ。明日だろ?」

「うん。そうだよ」

「これっぽっちが誕プレでごめんな」

「そんなことないよ!充分嬉しいよ!」

「そうか?ならよかった。志織のと比べたら、安っちいけど……」

「志織?志織ももう誕プレ買ってあるの?間に合わないって聞いてるんだけど……」

「え、は、はあ?……嘘だろ?やっちまったー……」



野島君は手を顔にあてた。



「どうしたの?」

「俺は志織の誕プレの買い物に付き合ったんだよ。それで夏音の誕生日を知ったんだけどさ。あ、そうか、志織はまだ準備終わってないんだな。随分と凝ってんなー」

「志織の誕プレって?」

「そこ聞くか普通?黙ってろって念を押されてるんだよなー……っていけね、もうこんな時間か。俺はもう帰るからな」



野島君はスマホの時計を確認した後、顔をしかめた。



「たいへんだね、兄弟が多いと」

「しかも全員下とかありえねー。男子3人もちびっこいるなんてうるさすぎ」

「でも可愛いじゃん」

「そこが憎めないんだよなぁ。今日は俺が夕飯作らなきゃいけないんだ。じゃあな!」

「ふふふ、頑張ってね!誕プレありがとう!」

「お、おう……」



わたしが笑ってそう言うと、野島君はそそくさと自転車にまたがって行ってしまった。わたしはチラッと、野島君の耳が赤くなっているのが見えた。



……なんでだろ?



わたしも流石に暑さに耐えられなくなってきていたため、野島君とは逆方向に歩きだした。


明日にこのチョコを持って行って、みんなで食べよう。

とわたしはスキップをしそうな気分で家路を急いだ。




それは、叶わぬ願いだとは知らずに─────



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